■ 無遠慮なジョセフと待ち人シーザー

なんかどっかで見たことあるなあの金髪、と駅前の広場を眺めて見覚えのある背格好に首を傾げた。時計を確認しているらしい男が顔を上げた直後に思わず声が出た。ジョジョのお友達のシーザーじゃないの。声をかけようとして、ふとアレはもしやナンパしてるんじゃないかと思い止まる。だとしたら私が声をかけてしまっては邪魔になるんじゃないか。


「なまえじゃん。何してんの?」

「おっはー、ジョセフ。珍しいのね、こんな朝早くから」

「まぁねん。ちょっと用事があって…、ハハーン?シーザーちゃん見てたのかしらァ?」

「うん。声かけようかなぁって思ってたところ」

「ふぅん、なまえは今から用事?暇なら俺とお出かけしない?」


唐突なお誘いにはてと首を傾げた。ジョセフは用事があると零していたはずだったのに、私と一緒にお出かけなんてして大丈夫なんだろうか。


「私はお散歩してただけだし、ジョセフは大丈夫なの?」

「心配してくれてるのなまえちゃんったら!」

「急用とかだったら困るでしょ」

「そんな事よりなまえのこと優先しちゃうもんねー。惚れた?」

「カッコイイなぁとは思うけど、本当に大丈夫なの?」


楽しそうに笑って首を縦に振るジョセフに一つ息をこぼす。ジョセフは手品も上手いけど嘘も上手いのだ。見極められるかと言えば、大体人を信じて疑わない私には至難の業である。ところがどっこい今回に限ってはヒントというか、回答がそこにあるので殆どジョセフの「大丈夫」を信じずに済んだ。少しだけ信じてた。お出かけ出来たら嬉しいなぁなんて考えて慌てて首を横に振る。ジョセフが不思議そうな顔で私を見下ろしていて、緑の瞳を見上げながら私は迷いなく回答を指さした。


「あそこの待ち人が怒るだろうからお出かけは無しです」

「なまえが相手をしてくれるなら寧ろ喜ばしい限りだ」

「ヒエッ、いつの間に…」

「ちぇー、見つかっちまったぜー」


指さした手を優しく握られて思わず声が出た。遠目にいたはずのシーザーがいつの間にかすぐ側で立っていて、しかも世の女性がコロッといくだろう微笑みを浮かべている。未だにこの女の子は全てお姫様みたいな対応に慣れない。シーザーは様になっててカッコイイんだけど、平々凡々な私は恥ずかしい上に動揺しまくりである。
面白くなさそうな顔で唇を尖らせるジョセフに、シーザーが一瞥もくれてないところを見ると、まあわかりやすい程に怒っているらしかった。


「なぁなまえ、何処か落ち着く場所に行かないか?積もる話もある。勿論二人きりで」

「ちょーっとシーザーちゃぁん?いきなり来てなまえと二人きりってどんだけがっついてんの。しかもなまえは先に俺が誘ってたんですぅ」

「可愛いシニョリーナがいたら誘うのは当然だろう。それにお前よりもなまえと話をする方が有意義に思えるんでな」

「げぇっ、超怒ってやんの」

「喧嘩はいけないっ」


この二人の喧嘩の仲裁になんて入れる筈もないけれど、流石に私を挟んでの喧嘩はやめていただきたい。そこいらの男よりも遥かに体格のいい二人に挟まれて物理的に苦しい。シーザーがスグに眉を下げて申し訳なさそうに謝るのに対して、ジョジョはといえば何故か逆に抱きついてくる。まさかコイツ、押し潰す気か。


「ジョジョっ」

「重い…」

「なまえは軽くてちっちぇー」

「馬鹿にされてる」

「可愛いって言ってんのよん」

「離れろこのスカタン!」

「やべっ」


抱きついたかと思えばあっさりと抱き上げられ、子供が高い高いされてるような格好になる。ぐぬぬ、屈辱的である。畜生、緑色の瞳が綺麗ですね。それを見ていたシーザーがとうとうキレた。手を出してくるとは思ってなかったのか、ジョセフが慌てて私を抱え直して一目散にそこから逃げ始める。待って、私は関係ない気がする。


「にぶちんなところもキュートよ、なまえチャン!」

「待てジョジョ!」


街一つを舞台にした、全く意味のわからない逃走劇が始まったのであった。まあ、三十分後にシーザーに捕まって、結局三人揃ってお出かけする事になったんだけれども。


2018/01/30