■ 微妙な関係の青槍と赤弓

外は凄いことになってるなぁなんて部屋で炬燵に足を突っ込みながらみかんを剥いていたら、インターホンが鳴ったのでこんな大雪の日に何の用だと悪態を付きつつ扉を開けた。いつもの青い髪の上に積もった真っ白なそれ。首に巻いたマフラーに顔の半分が埋もれていて、見える鼻は真っ赤になっているのが分かる。ふむ。


「サーヴァントも寒いとかあるんだね」

「馬鹿にしてんのか」

「関心してた。無知なもんで」

「無い胸張るなよ。こっちが悲しくなるわ」

「さようなら」

「待て待て待て」


失礼極まりない言葉に扉を閉めようとして、その羨ましいぐらいに長い手と足がそれを防いだ。思わず舌打ちをしてしまったけれど仕方ない。女性に対して失礼なこと言うやつに優しさなんてもんは必要ないんだよ。呆気なく開かれた扉からするりと部屋に入り込んできたランサーにため息をこぼす。遠慮ってものはないのかこの男。女性の部屋に躊躇いもなく入るとは、流石生粋の女ったらしの色男。くたばれランサー。


「可愛くねぇこと言うなよ」

「うげ、声出てた?」

「くたばれランサーだけな」

「なら良し」

「良くねぇよ馬鹿」


目の前に影ができたと思ったら当たり前の様にキスしてきたから、本当にこの男は手が早いと思う。いつか夜道で刺されたりしないか心配になった。まあサーヴァントだしそんな心配はゴミ屑みたいなもんだろうけど。
ランサーに押し付けられたのは袋に入ったみかん。見下ろしている私を放って先程まで私が座ってた炬燵に足を突っ込むランサーは、私が剥いたみかんを口に放り込んでいる。みかん多いな。嬉しいけど。


「何してんだよなまえ、早くこいよ」

「何で上から目線かな。私の家なんだけど」

「ほら、はーやーくー」

「どしたのランサー。いつもと違い過ぎて鳥肌」

「なまえってよォ、そういうとこあるよな」


仕方なく隣に座ろうとして腕を引かれる。抵抗するのも面倒なので、されるがままになっていたらランサーの足の間に座らされた。なんだなんだ、今日は偉く甘えたじゃないか珍しい。というか狭い上に暑苦しい。おいこら私の頭を顎置きにするんじゃない。ランサーがみかんを食べる度に振動が頭の上から響いて地味に痛いんだよ。剥いたみかんは何故かランサーが全て掻っ攫っていくので私の口に入らない。私が剥いたみかんなんだけど。
二度目のインターホンの音にランサーと顔を見合わせる。見上げる私と見下ろすランサーの視線が合ったのは一瞬で、流れるようにキスされた。今日のランサー本当に頭の螺子がぶっ飛んでる気がする。足の間から抜け出して、玄関先に行く前にその青い頭を軽く叩いておいた。


「むお、アーチャーだ」

「こんばんは、なまえ。凛からみかんを預かっていてね。届けに来たんだ」

「ひゃー、みかんはいっぱい家にあるんだなぁ」

「ならみかんを使ったタルトでも作ろうか」

「寒い中御足労ありがとうございます。早く中にお入りください」

「ああ、お邪魔する」


みかんの入った袋を私の目の前で掲げ、何とも甘美な誘惑をもってきたアーチャーを家に入れないなんて選択肢は無かった。寒風もそっちのけで扉を全開にしてアーチャーを迎え入れれば、先に入ったアーチャーが思い出したように振り返って私の額に唇を落とす。驚いて見上げれば、目尻を下げて笑うアーチャーに優しく髪を梳かれた。


「前払金だ。構わんだろう?」

「…ランサーと違ってアーチャーは大人ね」

「無論、タルトを作った後で褒美は貰うぞ」

「何も出来ないよ?」

「何もしなくていいさ」


冷たい手のひらに誘われて部屋へと戻れば、振り返ったランサーが不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。気配ってやつで分かるのかな。


「何でテメーも来るかね。さっさと帰れ」

「それはこちらの台詞だ。大方、なまえの気持ちも無視して無理やり押し入ったんだろう」

「わ、あながち間違いじゃない」

「なまえ、お前後で覚えてろよ」

「そちらは危険だ、おいでなまえ」

「わーいタルト作るー、ぐぇっ」


両手を広げるアーチャーに駆け寄ろうとして、急に首が絞まりそれは阻止された。慌ててそれに手をやればもふもふした何かが後から首を絞めている。ちょっと待てこれ私のマフラーじゃねぇか。


「伸びたらどうしてくれる!」

「首を絞められた事に怒りたまえ」

「なまえってホント馬鹿だよなぁ」


ケラケラ笑うランサーに襲いかかろうとしてアーチャーに引き止められた。この恨み、はらさでおくべきか…。
アーチャーお手製のみかんのタルトは三人で美味しく食べた。アーチャーのご褒美は今度デートに行くことで手を打ったけど、ランサーが物凄く何かを言いたそうな顔をしてて面倒だったので無視した。


2018/01/27