■ 友人が好きな一松

私の友達は猫が大好きだ。よく人目につかないような猫の溜まり場になっているらしい路地裏で餌をやっているのを見かける。そんな猫大好きな友達だからか、猫から懐かれるスピードも早い、その日の内に彼の足元をついてまわる事もある。


「にゃおん」

「ダメ。猫らしさが全然出てない」

「うなー」

「猫舐めてんのか」

「いだだだだ」


そんな猫大好きな友達、基松野一松は最近頭のネジを何処かで外してきてしまったようで。私に猫の真似事をしろと、まあ無理難題を押し付けてきたのである。あまりにも真剣に真っ直ぐこちらを見るもんだから付き合ってやっているのだけれど、全くこれっぽっちもお褒めの言葉を頂いた試しがない。これまで生きてきた中で猫になりたいと思ったことのなかった私に、いきなり今から猫(しかも本格的なもの)をやって見ろと言われても、それがまあ悲惨な結果になるなんて事は目に見えていた。案の定一松は先程から顰めっ面をしたままで、もういいと言うように煮干しを口に突っ込まれた。美味しい。


「いやー、いくら何でもそんなガチの猫にはなれないよ」

「似せる努力をしろって言ってんの」

「うえぇぇぇ?可愛げの無い女に何求めてんの一松。夢見るならチョロ松と一緒にライブ行ってきなよ」

「なまえがやる事に意味があるんだよ」

「はー、悪趣味だねぇ一松」


煮干しをカムカム。お酒のおつまみに丁度いいんだなぁコレ。おそ松がよく一松に隠れて酒の肴にしてる理由がよく分かる。その後で一松にボコボコにされてるのも知ってるけど。
寄ってくる猫に普段見せない笑みを浮かべて煮干しを分け与える一松の何と幸せそうなことか。


「もはや別人」

「は?」

「こっちの話」

「あっそ」


訝しげな顔で私を見上げる一松に首を横に振る。大した興味も見せず視線を元に戻した一松はまた柔らかい笑みを浮かべていて、本当に何で普段からこんな顔ができないのかと肩を落とす。もっと素直になれよぉぉぉ。


「一松はここにいる猫でどの子が一番好き?」

「俺如きが一番を決めるとか烏滸がましいにも程があんだろ猫馬鹿にしてんのかふざけんなよ全員好きだわ死ねボケ殺すぞ」

「そっかぁ」

「……猫は全員好き」

「うん?聞いたよ」

「…ん」


早口に捲し立てる一松に頷いて、何故かもう一度繰り返した一松に首を傾げる。聞こえてなかったと思われたのか、心外である。一松の言葉は全部聞いてるから別に繰り返さなくても大丈夫だと言うのに。心配性だなぁ、私の猫好きの友人はよしよし。いつも俺に構うなオーラを出すのに、放っておいたら何で構ってくれないのと面倒くさい寂しがり屋の一松の話を私が聞かないはずがない。今のところ私は一松の友達トップ五位には入ってると思う。入ってたらいいなぁ。


「今日の帰りはあんまん買って帰ろう」

「俺のは?」

「ふふん、一松はんのも買ってあげますやん」

「ヒヒ、なまえはんやっぱ優しいお人ですわぁ」


ニヤニヤと笑う一松と同じように笑い返せば「ブサイク」と言われたので、両手を軽く握り顔の横に寄せる。精一杯のぶりっ子ってやつを見せてやった。


「一松にゃんひどいにゃー」

「……チョロ松が地下アイドルにハマる理由がちょっと分かった」

「にゃー?」

「でもやっぱ猫舐めんな」

「いだだだだ」


一松にゃんほんのり赤い顔で言われても説得力ないにゃー。慣れないことはするもんじゃないな。客観的に見て、自分がどれだけ痛い子なのかを認識して肋が折れそうになった。


2017/12/12