■ 死ぬ気でローを追う

これは本当に突拍子もない話である。何を言われても、見ても、聞いても、今から私が言うのは事実でしかない。準備はいいか。数時間前、私は一人の男に心臓を抜き取られた。いや嘘じゃない嘘じゃない。あからさまに可哀想なものを見る目をしてはいけない。何の嘘偽りもない話だ。
とある島のとある場所。海賊狩りなんていうのを稼業としている私が、いつもの様にそこそこの賞金首に縄を付けてお金を稼いでいた所だった。超新星だなんていう御大層な呼び名で世間を騒がせている、その中でもかなり有名所の死の外科医と目が合った。挨拶や会話なんてものは無く、ただ目が合った瞬間に能力を発動されては何の反応も出来ず、気付けばかなり遠かったハズの距離が顔を突き合わせるような位置にまで移動していた。そこからは早かった。気付けば私のものであろう心臓を片手に私を見下ろすトラファルガーがいて。うわ、グロイだなんて自分のものなのにそんな感想が真っ先に出てきてしまい慌てて首を降る。何とか奪い返そうとするも流石は億超ルーキー。全然捕まらない上にその余裕そうな顔と言ったらもう、腹が煮えくり返る思いだ。


「こんのクソ外科医っ!」

「無粋な呼び方だな。ローと呼べ」

「私の臓器返せ!!!」

「聞けないお願いだ」


武器である刀を振り下ろすもサラリと受け流され弾かれれば、太腿のホルスターからナイフを投擲する。避けられることは百も承知。その間に整えた体制でトラファルガーの懐へと飛び込めば、それはもう腹の立つニヒルな笑みが視界に映り込む。


「大胆だな」

「ク ソ 医 者」

「口の悪い猫め。躾がいがある」


腹目掛けてデリンジャーをぶち込むも忌々しい能力とやらで目の前から消えたトラファルガー。ピタリと首裏に向けられた刀の切っ先に舌打ち。


「返して欲しいなら、追って来ればいい」

「捕まえて海軍に突き出してやるから!」

「口だけは達者だな。またな、なまえ」


消えたトラファルガーに募り募った苛立ちから叫んだ。あんのクソ医者がぁぁぁ!!!医者の癖して同意なく心臓抜き取るってどういう了見だぁぁぁ!!!
とまあ海賊狩りからトラファルガー狩りに変わるのは直ぐだった。トラファルガーと関わりのある海賊を徹底的に洗い出し居場所を吐かせて追いかけるという、まさに鬼ごっこが始まったのである。いや、この場合鬼は私じゃないと言いたい。勝手に人の心臓を抜き取るアイツが鬼である。


「見つけたぁぁぁ!!!麦わらのルフィ!!!」

「おおおおおっ!?」


億超ルーキーの一人であるゴム人間、麦わらのルフィ。警戒を顕にする一味も無視して麦わらの胸ぐらを掴めば、きょとんとしたあまりにも邪気のない顔をされて一瞬本当に海賊かと疑ってしまう。


「クソ医者は何処!」

「医者?ウチの医者はチョッパーだぞ」

「オレか!?」

「違う!タヌキは探してない!」

「トナカイだ!」


指さしたそこには体を大きく震えさせてこちらを見るタヌキ。かと思えば一変、鋭いツッコミをされて一瞥を送る。よく見ればマスコットみたいで可愛かった。後で抱かせてもらおう。
麦わらの胸ぐらを掴んでぐらぐらと医者を出せと叫んでも、首を傾げるだけで畜生話にならない。


「こら、なまえ。襲い掛かる相手が違うだろ」

「ヤブ医者ぁぁぁ!!!」

「相変わらず口が悪いな」

「私の心臓返せぇぇぇ!!!」


肩を叩かれ振り返ればそこには憎悪しか湧かないトラファルガーの姿。麦わらから手を離してトラファルガーに掴みかかれば、余裕綽々と言った感じに笑みを浮かべるものだから腹が立つ。私の心臓を返せって言ってんだよ。何よしよし全くコイツは仕方ないなぁみたいな目をしてるんだ。腹立つ。


「トラ男、こいつの心臓とったのか?」

「ああ、オレのものだ」

「でもこいつ嫌がってんぞ。返してやれよ」

「良いこと言った麦わら!さっきは掴みかかってごめん!」

「悪いな。麦わら屋の頼みでもなまえの心臓は返せねぇ」

「何でよ!初対面で心臓とるってどんな性癖してんのアンタ!?」


ガクガクと胸ぐらを掴んで揺らすも意に介した様子もなく麦わらに首を降るだけ。ホントにこいつ頭おかしいんじゃないのか。


「美味そうな飯があればお前は譲るか、麦わら屋?」

「そんな訳ねぇ!俺が食う!」

「そういう事だ」

「どういう事よ!」


こんなクソ医者今すぐ海で溺れて死ねばいいんだ。こんな男に心臓握られて死ぬなんて絶対に嫌だ。それなら舌を噛み切って死んだほうがマシである。
刀を振り抜くもあっさりと躱されて舌打ち。麦わらの剣士に「良い抜き方だ」と褒め言葉を貰ったけど今それどころじゃない!ニヤニヤするな!ああああ!もう!腹が立つ!


2017/05/12