第十話 | ナノ 夜、仁王は案の定店長に呆れられている。
「仁王、その怪我じゃコーヒーもまともに入れられないだろ。今日はおとなしく休め。
埋め合わせは治ってからやってもらうから」
「そこをなんとか…」
なんとか仕事しようと頼み込んでいるが、店長は「休め」の一点張りだ。
丁度仁王と顔が合わせずらかった俺は店長の傍に寄った。
「店長、俺ちょっと事情があって辞めます」
「―――はぁ!?」
店長もろとも、みんな一斉に俺を驚いた顔で振り返った。
正直、ここまでの反応とは思わなかったからマジでビビった。
「ま、まずいよそれは!!キミが辞めたらどんだけうちの客が減ると思ってるんだ!!」
口火を切った店長に続き、女の子たちも、ましてや男たちも「じゃあ俺(私)も辞めようかな」なんて言い出した。
そんな状況の中でも俺は絶対に仁王と目を合わせない。
店長は仁王に「仁王、お前丸井と親友だろ?辞めるの止めろよ」と体当たりをしていたが、仁王は口を噤んだまま開かなかった。
結局「辞めるじゃ無くて、しばらく欠勤じゃダメかい?」と店長に泣きつかれ、とりあえずそれを了承した。