第五話 | ナノ
「あ、そういえば」
焼きそばパンを片手に仁王が話しかけてきた。
「昨日愛沢と何話してたん?」
胸に押し寄せる違和感。
「お前さんがツレないって嘆いとった。
本当に彼女いないの?って聞かれた」
「それだけ?」
「おん」
「お前なんて言った?」
「別に。本当にいないって言った。おらんじゃろ?」
「―――。
お前はいんの?」
俺は返答をせず、それだけ言ってどんぶりを傾けた。
「いる」
ブッっと口に含んだ汁を吐きそうになった。
「ゴホッ!ゲホゴホッ」
変な器官に思いっきり熱い汁が入って俺は咳き込んだ。
「慌てなさんな、…大丈夫か?」
仁王は俺の背中をさすった。
「ってかお前居んのかよ!!誰だよ!!何で俺が知らねえんだよ!!」
ゲホゲホと未だに咳き込みながら俺は素で驚いたまま思わず声を荒げた。
――居るって!!?
仁王に彼女が居るって!!?
嘘だ。こんな見え見えな嘘。
こんなにも一緒に居るのに、俺が気づかないハズが無い。
「高校の子?他のバイトの子?おい誰だよ!?」
自分でも何でこんなに焦っているのか分からない。
「そんな素振り一度も見せたことないじゃん…」
俺が軽くパニックを起こしていると仁王がニッコリと笑って正面を指差した。
「…何だよ?なんかついてたか?」
仁王は首を横に振った。
「俺の彼女、丸井ブン太クン」
まただ。
心臓が早く脈打つ。