第一話 | ナノ
仁王雅治と、俺――丸井ブン太は、中学で知り合い、案外趣味が合ったもんだから、結構お互いのこと知ってるし、いまじゃバイト先まで一緒だ。

「丸井、ライブのチケット姉貴から貰ったんやけど…一緒に行かん?」

職場のカフェのロッカールームに入るなり、仁王は思い出したように言い、俺の肩を抱いた。
「ライブ?誰のだよ?」

鬱陶しいから、俺は顔を背け、手を払いながら言うと、仁王はジーンズのポケットから紙切れを取り出し、俺の前に出した。
―――え。
俺は、そのチケットのアーティストの名前を読んだ視線のまま、仁王を見上げた。
例の、俺に似ているボーカルが居るバンドだった。

「行く?」

俺にしては珍しい反応があったからか、仁王は俺の顔を見たまま、首をほんの少し傾げた。

「…やだ。どーせ周りは女ばっかだろぃ?」

俺はどこか複雑な心情が自分でも限りなく面倒臭く、適当な返事を返して、着替えを済ませ、ロッカーを閉じた。

「行ってみなきゃわからんじゃろうが。せっかく2枚あるんじゃし、行かんか?」
仁王は、着替えを終えてモップをかける俺にしつこく誘ってくる。

「じゃあ仁王君!あたし行きたい!!」

突然、同じシフトに入っている美奈ちゃんが仁王に駆け寄ってきた。

「愛沢が?」
「うん!丸井君が行かないなら、そのチケットもったいないでしょ?あたし行きたかったし、仁王君がそれでいいなら、行こうよ!」
「あ、あぁ…」
「ありがとう!」

チラリと仁王の顔を見て、俺はフロアを後にした。
仁王はぱっと見、女にモテる。
中学時代は俺と同じテニス部だったけど、身長は175はあるし(いや、もっとあったかな)、顔も色っぽいし。
しょっちゅう告白されてんのを見たことがあるけど、あいつは1人の女と長く付き合えないのか、気がつくと俺に『暇になった』とか言ってくる。
俺はそれで、別れたことを悟る。
今の仁王もフリーだし、美奈ちゃんだって可愛いし積極的みたいだから、またしばらくは俺が暇になんのかなーという曖昧な考えが脳内を走った。
俺はトイレ掃除にかかりながらふと鏡に映った自分を見る。

「ちょっと髪、伸びたな…」

襟足にそって少しクセが出てきた髪を指で弄った。
髪は故意に伸ばしている。

「もう少し伸びたら、もっと似てくるんだろーな…」
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