第8話 Mother heart ──私と、と、友達からでもいいから…つ、付き合って…くれませんか?── そう必死になって言ってくれたヒナタに、頷いた日から、2日経った。 「─ルト」 本当に、どうしようかこの気持ち。行き場のないこの気持ちをヒナタにぶつけるのも嫌だ。正直、どうしていいか分からない。 ──あいつとどう話すかも。 「─ナルト!」 「はっ、はい!」 急に呼ばれた俺はびくっと肩を震わせて声の主を見た。けど、…やっぱり直視できない。 「何さっきからぼーっとしてんだウスラトンカチ」 「……え、あ」 運転しながら、サスケが俺に話しかける。ここは、サスケの車の中。そうだ。俺達は今、サスケの両親のメッセージビデオを撮りに行く途中なのだ。しかも、車内は二人きり。サイやシカマルも、今日は機材とかは持って行かないから、今日はいない。この状況どうしろっていうんだってば。 「サクラの両親は撮れないんだろ?これ撮ったら俺撮るって忘れてねぇよな」 そう、サクラちゃんのご両親は二人共仕事が多忙らしいから残念ながら撮ることは出来ない。だからサスケの両親とサスケの撮影のみとなる。 「…そんくらい忘れてねーってば」 全く、運が悪いものだ。こんな遣る瀬ない気持ちでしかも、サスケを撮影するなんて。もうまともにサスケの顔、見れそうにないのに。はぁ、と溜め息を着くとサスケは俺を見た。 「…」 赤信号で車が止まる。 サスケの視線が感じる。 横からでもわかる、運転中サングラスをかけているサスケは、めちゃくちゃかっこいい。その目が俺を見ていると思っただけで、身体中が熱くなる。 やがて、青信号になりサスケは再び車を発進させた。 ちら、とサスケを盗み見てみると、もうその目は前を捉えていて俺に向けられることはなかった。その横顔に、俺の胸はまた高鳴る。そんな自分を俺はまた恨めしく思った。 「おじゃましますってばー!」 ガラッと音を立てる扉を開けると、和室の居間があった。 「あらナルト君いらっしゃい!遠いのにわざわざ悪いわね」 「いや大丈夫ですってば!こちらこそいきなりすみませんってば」 ここは、サスケの家。 居間に行くと、サスケの母ちゃんが居て、笑顔で挨拶をしてくれた。 サスケの母ちゃんは、小さい頃から俺とサスケがよく遊んでたもんだから、俺の母ちゃんと仲良しでよくサスケの家に遊びに行ったもんだ。その度におばちゃんなどと呼んでいた。 「ナルト君、久しぶりだね」 「イタチ兄ちゃん!久し振りだってば!!」 そう、イタチ兄ちゃんというのはサスケのお兄さん。有名な小説家で、映画化された作品も多い。今は活動休止しているが、また再開する予定なのだという。 「うん。おかげで結構休ませてもらってるよ。サスケの結婚式も行かなくちゃ行けないからね」 にこにこと話すイタチさんはやっぱり大人びてた。 「はいはい、ナルト、さっさと親父達のメッセージ映像撮るんだろ。兄さんは来んな。あっち行ってろ」 「なっ!お前イタチさんにんな口きいていーのかよ!俺がイタチさんと喋ろうが勝手だろー!?」 「時間がないって言ったのはどこのどいつだ?」 「う………すんません」 「はは、サスケもまだまだガキだなぁ」 「うるせぇな、すっこんでろ」 イタチさんは、やっぱりサスケが可愛くて仕方ないのだろう、凄く優しくサスケに接してる。 「お父さーん!ナルト君来たわよ!ビデオ撮影するって!」 おばちゃんが奥の部屋に向かって叫ぶと、サスケのお父さん、フガクさんが出てきた。 「挨拶が遅れて済まない。久し振りだねナルト君」 「お久しぶりですってば。今日はお願いします」 俺は軽く会釈しながらフガクさんに言った。 「じゃあ、撮りましょうか!」 「ハイ!じゃあその椅子に二人並んで座って貰っていいですかってば?」 今日は普通のビデオカメラ。機材が必要な程の撮影ではないが、大事に撮らねば。 「あなた、言うの私からでいいかしら?」 あぁ、と頷いたフガクさんを見てから、俺はカウントダウンを始めた。 「行きますよー。3、2、1、0!」 ピッ、とカメラのスイッチを押し、おばちゃんが話し始めた。 「えっと…サスケ、サクラさん。結婚おめでとうございます」 おばちゃんは微笑みながら、そう言って会釈した。 「サスケがもう結婚するんだなぁ、なんてこと、今更実感しています。サクラさん、不甲斐ない息子ですが、どうぞよろしくね。二人共幸せに過ごして下さい」 そう告げると、また会釈をしておばちゃんの話は終わった。 「えー、この度は結婚、本当におめでとう。満足した家庭を作って下さい。」 と、今度はおばちゃんより早く話し終えたフガクさんが会釈した。 「はーい、ありがとうございました!お忙しい中すみません」 ピッ、とまたスイッチを押して保存。 「こんな感じで大丈夫ですか?」 と、二人を撮った映像を見せる。 「うん、大丈夫よね。ありがとうナルト君」 おばちゃんこういうの初めてだったから緊張しちゃった、と微笑む。 「…ナルト、もう用は済んだろ。とっとと俺の撮影しに行くぞ」 サスケが隣に来て、俺を見下ろす。その顔は僅かに赤くなっていた。でも俺はサスケの顔を眺めていられなくなってしまった。やっぱり、ヒナタと友達から始めたばかりだし、そう簡単には消えない。 「サスケ、照れてるのか?」 いつの間にいたのか、イタチさんがサスケに話しかける。 「うるせぇよ!照れてねぇし!」 「はははは!ウケるってば、サスケが赤くなってる!」 「うっせ!ホラ、さっさと行くぞ!」 サスケはさっきのおばちゃんとフガクさんの言葉に照れてるらしいから、赤くなっていた。そんなサスケを、俺はまたいつもの調子を崩しちゃいけないと思って、からかってみた。 「あ、せっかくだからナルト君お昼食べて行かない?おばちゃん久々だから作るわよ〜」 おばちゃんはどこか楽しげに言った。 「え、でも…」 「いーのよいーのよ!食べてって!」 そう言っておばちゃんは台所へ行った。そんなおばちゃんを見て、サスケに視線を戻す。 「……サスケも食ってけよ。久々なんだろ、実家帰ってくるの」 「…ちっ…食ったら撮影すんぞ」 サスケのお許しが出たのではいはい、と笑って言ってみた。なんだかんだ言ってサスケは家族が大切なんだと実感した。 (サスケのキャラじゃねぇってば…) 「じゃあ、俺はまた作業してくる…ナルト君、ゆっくりしていきなさい」 俺が内心サスケに対して笑いを堪えていると、フガクさんがゆっくり立ち上がり、俺に話しかける。 「あ、ありがとうございます」 俺はまた会釈をすると、フガクさんは自室へ戻って行った。 「サスケ、ナルト君座りなさい?準備してたから、もうすぐ出来るわ」 見るとおばちゃんは料理を皿に盛っていた。 「すみません、ホラサスケも座れよ」 「…おう」 俺達はテーブルのある椅子に座ると、おばちゃんは料理を持ってきてくれた。 カレーだった。 「うわ!おばちゃんのカレー久々だってばよ!いただきまーす」 おばちゃんのカレーは、子供の頃よく食べさせて貰っていた。 「うまっ!!やっぱおばちゃんのカレーうまいってばよ!」 「そう?良かった」 おばちゃんはニコニコしながら俺の向かいに座った。 「ふふふ、私ね、本当はサスケはナルト君と一緒になるんじゃないかなって思ってたの」 「っ!?げほっ!げほ!!」 俺は唐突な言葉に、喉を詰まらせた。 前にもあったよな。こういう光景…… 「な、ななななん……!」 「あら、びっくりした?ごめんね〜」 さっきより不気味そうに笑うおばちゃんを見て、俺の背中に嫌な汗が伝った。見るとサスケも詰まらせている。 「だってベタベタだったじゃない?二人共!あ、今もね?」 次々と爆弾発言をしてくるおばちゃんに、俺は目眩を覚えた。 「お、俺とサスケは男だってばよ!!」 それはおばちゃんがよくわかってるだろってば! 「おばちゃん、愛の形に偏見はないと思うわよ〜?てっきり付き合ってるかと思ってたわ」 「付き合っ……」 かっと顔が赤くなった。 付き合うだなんて…… そんな夢のようなことあるわけがない。サスケが聞いたらきっと気持ち悪いと思ってるだろう。 「母さん!ちょっかい出すなよ、困ってる…」 自然に俯いていた顔を上げてサスケを見た。するとサスケは、手で顔を覆っているからあまり分からないが、何ともいえないような複雑な顔をしている。 「あら、ごめんね〜」 ふふふ、とまた不気味に笑う。おばちゃんは絶対俺達を遊んでるようにしか見えない。 「〜ナルト、撮影しに行くぞ」 「え、待って俺まだ食い終わってな…!」 サスケはいきなり立つと、背を向けて玄関を出て行った。サスケの皿は既に空。そんなこと言われたらそりゃサスケにとっては気持ち悪いよな…とまた顔が俯いた。 「ごめんねぇナルト君。サスケ不器用なのよ〜」 いかにも面白そうな目をして話してきた。 「ほんとはあの子、話すときナルト君のことばかり話すのよ。うふふ、本当にナルト君のこと好きなんじゃないかって思って。全く、それとは打って変わって普段ナルト君に冷たいんだからねー」 やっぱりサスケは素直じゃないわね、と溜め息をこぼすおばちゃんに、俺は胸の奥がギュッてなった。 (……やめてってばおばちゃん…) そんなこと言わないで… サスケが俺のこと話すなんて、嘘って言ってよ。 (何でサスケが俺のこと…) 堪えられなくなるじゃんか… なら、どうしてサクラちゃんと結婚したのって、また嫉妬しちゃうじゃんか。 期待しちゃうじゃんか。 「─サスケはそんなこと…」 「あら、おばちゃんがナルト君の気持ち知らないと思った?」 にーっと、まるで子供のような目をして聞いてくる。 「…!」 「おばちゃんナルト君には頑張ってほしいのよ。まぁ、あの子は気付いてないみたいだけどね」 俺を励ましてくれていたのだろうか。もっと、自分に自信を持てと? 「…おばちゃんそれ普通、あいつが結婚する前に言う?」 サクラちゃんに失礼だってばよと言い掛けようとしたら、 「みんなこういう状態にならなきゃ、いつまで経っても素直になれないでしょ?」 おばちゃんの目が光る。 「堪えられなくなったら言っちゃえばいーのよ、好きだって」 はぁー、こういうの楽しいわ、と呟き俺の顔をまた見た。 「…おばちゃん、」 「ナルト!車出した。行くぞ」 後ろの窓からサスケの声が掛かる。 「わかった!おばちゃん…カレー、ありがとうってば」 笑ってみせると、おばちゃんも優しく笑ってくれた。 家族も大事だけど、自分を心配してくれる母親っていうものはやっぱり、大事だなとサスケに心の中で呟いた。 |