頂きもの 灯里さま | ナノ





愛するひと

夕日が全てを橙色に染めている。どうして だろう。夕暮れを見ると、物悲しくなるよう な気がするのは。
昼が夜に移り変わる今のような時刻を逢魔 時と呼ぶらしい。大禍時とも呼ぶらしく、大 きな災いが起こりそうな――妖怪や幽霊に出 会いそうな時間だと聞いたことがある。
そこまで考えて、吉沢は顔を上げた。そん なことを考えてしまうのは一人だからだろ う。ただでさえ、『そんなもの』は苦手だと いうのに。

小テストの採点をしていた途中で立ち上が る。一人でいるからこんなことを考えるの だ。ふと、ある人に会いたくなった。
川西陽菜。愛するひと、と言えばいいのだ ろうか。陳腐な響きだが、事実である。彼女 のことを考えるだけで心が暖かくなった。
自分より十は年下だが、愛の前では些細な ことだ。背が低いことを気にしているところ も凄く可愛い。抱きしめたい、と言えばつれ ない言葉が返って来るとしても。

テストを持って出ようとすると、視界に 入った少女の姿。吉沢がいるのは二階で、こ こからは丁度正門付近の景色が見える。
友人たちと談笑しながら歩いているのは、 髪を後ろで一纏めにして制服を身につけた少 女。陽菜である。

「……流石に走っては行けませんね」

もし、彼女一人なら追いかけてもいいのだ が、陽菜のそばには友人たちがいる。流石に あの中に飛び込むことは出来ないだろう。
視線に気づいた訳ではないだろうが、彼女 が二階――吉沢が見ている窓の方を向いた。
おしゃべりに夢中になるあまり、陽菜が立ち 止まったことには気付いていない。

目が合った、かと思えば、彼女はこちらに 向けてひらひらと手を振った。笑みを浮かべ て。仕方がないなあ、そんな感じだろうか。
咄嗟に手を振り返せば、陽菜は小さく笑っ て走りだす。友人たちに追いついた彼女は吉 沢の視界から消えた。

夕日に照らされたその横顔があまりに綺麗 で。いつも余裕があるように見えているかも しれないが、本当にそんなものなどない。初 めて愛を知った少年のように、実は余裕がな いのだ。
先ほどの気分など、どこかへ吹き飛んでし まった。持っていたテストを机に置いて腰掛 けると、採点を再開する。陽菜の笑顔が見る ことが出来た今は、何でも出来そうな気がし た。

(きっと、陽菜の笑顔を見たからですね)

End









君と描き合い隊でお世話になりました灯里さまより頂きました。
先生の陽菜大好きさと二人の可愛さにキュンとしました…!!
先生に幸せになってもらいたい…!←
灯里さま本当にありがとうございました!!
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