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放課後の体育館裏で告白…
なんていつの時代の少女漫画だなんてことが数メートル先で繰り広げられている。
他人の告白現場なんて覗く趣味はないし興味もないのに、その場から動かないでいるのは
「ごめんね、いきなり呼び出して」
「ん?全然大丈夫だから!」
告白されようとしてるのが幼馴染だからだろうか。

涼華がここにいるのは全くの偶然だった。
体育館裏を通るのが体育館への一番の近道だからだ。
ただ、日当たりが悪く昼でも薄暗い場所なので人通りが極端に少ないのも事実である。
(告白するならこんな陰気な場所じゃなくてもいいでしょうに…)
校舎の壁に背を預けながらぼんやりと考える。
あと数分で親友の部活が終わるだろう。
久しぶりに一緒に帰れるね!と無邪気に笑う陽菜を思い出して頬が緩んだ。
やはり告白現場を盗み聞きするのはよくない、素直に昇降口で待ってようと立ち上がるが、「で、なんで呼び出したの?」
という恭平の声で動きをとめた。
「秋野君って宮原さんと付き合ってるの?」
「…いや、付き合ってねぇよ」
「そっか!良かったあ…」
女の子が心底嬉しそうに呟いた。
「あ、あのね…」
なぜだろうか
「私、秋野君のことがね」
その先を聞きたくない、そう思った瞬間走りだしていた。

花屋の店主である笹原慶が店先の片付けをしていると、涼華が駆け込んできた。
腹立たしげな、どこか泣きそうな顔をした涼華を放ってはおけず笹原は彼女の話を聞くことにした。
「へえ、そんなことがねぇ…」
「そうなんです。その子隣のクラスの子なんですけど私と付き合ってないって聞いた瞬間嬉しそうな声出してっ…」
その時のことを思い出したのかギュッとココアの入ったマグカップに力を入れた。
笹原はそんな涼華に小さく笑ったが気付かずに続ける。
「だいたいアイツもアイツですよ。どうせ付き合う気もないんだろうに告白されて。というか私が体育館行くときはあそこ通るって知ってんのに!屋上に変更とか出来たでしょうが!!」
ついに声に出して笑ってしまった。
じとりと睨む涼華にごめんごめんと軽く謝る。
「それで、恭平君が告白されててどう思った?」
「どうって……イライラしましたよ。けどそれ以上に…悲しくなったんです。」
少し口ごもったのちにそうぽつりと答えた。
(そう思うんならそれはもう恋だとおもうんだけどねぇ…)
「自覚なし…かい」
「なにがです…?」
なんでもないというと不思議そう
な顔をされた。
「さて、そろそろ帰りなさい。6時になるよ。」
「あ、ほんとだ。じゃあ帰ります。」
冷めてしまったココアを飲みほすと、涼華は礼を言って立ち去った。

彼女が去っていった扉をしばらく見つめていた笹原だったが、おもむろに立ち上がるとある花に近付いた。
「涼華ちゃんが気付くのが先か恭平君が気付くのが先か…楽しみだね」
恭平君に告白したって子はおそらく失恋しただろうね、など思いながら途中だった片付けを再開した。

青春の始まりと終わり


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