天空朱雀さまより(頂き物) | ナノ



いたずらに泣いたふり


──私には、幼馴染がいる。
幼馴染というより、腐れ縁と言った方が近いのかもしれないけれど。

幼馴染のアイツはとんでもなくマイペースで興奮しだしたら突っ走って止まらなくて、結局私は巻き込まれるかツッコミ役をやらざるを得なくなる。
そんな感じで、アイツとの付き合いも早10年以上。

だんだんアイツの突っ込み役に回るのが日常茶飯事になっていて。
だから、最早文句を言う気も起らなかった。

でも、それでも──…


◆◇◆


SHRの終わりを告げるチャイムが鳴り、ようやく学校から解放された生徒達のざわめきに支配される教室。
放課後の部活動を行う為に早々教室を出る者、のんびりと放課後を過ごす為に友人とお喋りをする者、さっさと帰り支度をする者…様々だ。

そんな中、いそいそと帰り支度をする涼華に声をかけるのは、彼女の幼馴染でもある恭平であった。

「なぁなぁ涼華、放課後暇かー?」

「う〜ん、まぁ暇と言えば暇だけど。…ってか、何よ改まって。一緒に帰るならいつもの事なんだし、わざわざ許可するものでも無いと思うんだけど」

小首を傾げながらも恭平の問いに答える涼華。
何故恭平が改まってそんな事を聞くのか…彼の真意は未だ分からないものであったが。

すると、恭平はというと涼華の問いに満足そうにへらりと笑って見せる。
刹那、涼華の脳裏を警鐘にも似た何かが鳴り響くのを感じた。
こういう第六感のようなものは、案外馬鹿にならないので困ったものである。

昔からの経験で、こういう俗にいう嫌な予感がする時は、大体ロクな事が起こらない。
そして、涼華の嫌な予感はこれから遠くない未来に的中する事となる。

「さっき陽菜から聞いた話なんだけどさー、真夜中誰も居ないはずの体育館でボールの音が聞こえるんだって」

「何よソレ、胡散臭い話…。まぁ、オカルト好きな陽菜らしいけど」

若干興奮気味に話す恭平に対し、涼華の反応は素っ気なく2人の温度差が凄まじい。
しかし、その程度で引き下がる恭平では無い。
「でもさー、そういうのって実際にこの目で確かめてみねーと分かんないだろ?」

「別にいいじゃない確かめなくても。そういうのって、一種の都市伝説なんだし」

「え〜そうか? 俺は気になるけどなぁ。…で、そういう訳だから俺と涼華の2人で確かめに行こうぜ!」

「……え?」

いきなり話が訳の分からない方向へ傾いて、涼華は鳩が豆鉄砲食らったような顔つきでぽかんとするばかり。
先程の嫌な予感はこれだったのか…と今更痛感するも、時すでに遅し。

しかしすぐさま我に返った涼華は、すかさず反論に出た。

「なんで私が行かなきゃいけないのよっ! 絶対に私は行かないよ。大体、他の人誘えばいいじゃない」

「他って言っても、皆頼りない奴ばっかりだもんな」

断固拒否する涼華に対し、尚も食い下がる恭平。
どちらも譲るつもりは無いらしい。

「な、頼むよー一緒に来てくれるだろ?」

「だから私は行かないって言ってるじゃん!」

「何でだよー、大体お前が来なきゃ始まらねーんだよ」

「何が始まるのか分かんないし、そもそも始まんなくていいからっ!」

…だんだん、不毛な争いになっている気がしなくもない。
いつもこうだ。恭平は一度決めたら何が何でも絶対に自分の意見を曲げない。
だからこそ、最終的に涼華が折れて彼に付き合わされる羽目になるのだ。

今まではそれでも我慢してきたが。
何故か今日は虫の居所が悪いのか、恭平に振り回されるのが癪に障ったようだ。
「先生とかにバレるとヤバいから、夜中までどっかに隠れてそれから体育館行こうぜ」

「…ってか私の話聞いてる? 私行かないっての」

「何でだよー、本当に頼むよ、な?」

最早恭平の脳内では、すでに2人で一緒に体育館に行く事が決定されてしまっているらしい。
ずっと反論を繰り返していた涼華であったが、此処で突然口を噤むとその場に俯いてしまった。
俯いているのと前髪に隠れてしまっているせいで、彼女の表情を確認する事は出来なかった。

一方、涼華の様子がいつもと違う事にようやく気付いたらしい恭平。
きょとんと首を傾げると、

「…涼華? どうかしたのか?」

「……恭平ってば、いつも自分の意見ごり押しするじゃん…。何で私の意見も聞いてくれないの?」

「え? そうかなぁ〜?」

「そうだよ。恭平って一旦興奮すると突っ走って止まらなくなるし…」

まるで機械が話しているような抑揚の無い声色で淡々と話す涼華。
相変わらず顔は隠れてしまって見えないが、肩をカタカタと震わせており尋常な状況で無い事だけは確かだ。

流石にこれは不味いと思ったのか、恭平は慌てた様子で涼華に話しかけた。

「も、もしかして怒ってる…のか? それとも泣いてるとか? ご、ごめん、俺が悪かったって」

「……」

「なぁ、本当ごめんって! お詫びに…あ、そうだ、チーズケーキ買ってやるから」

「……、本当に?」

「ああ、本当だって」途端、パッと顔を上げて恭平の顔を見上げる涼華。
そんな彼女の顔つきはケロッとしたものであり、恭平が指摘していたような泣き顔は微塵も感じられなかった。

「やった〜、じゃあ後でちゃんとチーズケーキ奢ってよね? さっきの言葉無しとか、認めないから」

「…へ? 何でそんな平然としてんだよ? 泣いてたんじゃないのか?」

「え、私が? そんな訳無いじゃない、まぁ泣いたフリはしてたかもしれないけど」

此処まで来て、ようやく涼華に謀られた事に気付いた恭平だが、今更前言撤回する訳にもいかず。
その一方で、涼華はしてやったり、といった勝ち誇った表情でニッと口角を吊り上げてみせた。

「私の泣いたフリに引っかかるなんて、恭平もまだまだだね。それじゃあ早速、ケーキ食べに行こうよ」

「うー…しょうがねぇなぁ。その代わり、体育館行くの付き合ってくれるだろ?」

「何でそこで体育館の話が出てくるのよ。そんなに行きたかったら1人で行きなさいっ」

未だに納得しかねる恭平の腕を強引に引っ張って、涼華は上機嫌で教室を後にしたのだった。
その後、何だかんだで恭平に丸め込まれ、その夜体育館に行くのに付き合わされる涼華の姿があったのだとか。


END.



君と描き合い隊でお世話になりました天空朱雀さまより。
- ナノ -