冷たい右手(吉川) | ナノ




ぱた ぱた ぱた
人通りの多くないせいかやけに足音が響く。
大会が2ヶ月後まで迫ってきているせいか、練習が終わる頃には辺りが真っ暗になっていた。
ぱた ぱた
早く帰りたいのに、足が重い。
それにもうすぐ春だというのに寒すぎる。
ポケットに入れてる左手は暖かいのに右手はとても冷たい。
「お腹すいてきた…」
寒さであまり曲がらない右手をなんとか動かして右ポケットから棒付き飴を取り出すと、フィルムをなんとか剥がして口にくわえる。
「はぁー…」
「おや?」
いきなり聞き覚えのありすぎる低音が流れた。
「わたしそんなに疲れてるのかな」
「それは大変ですね俺が癒してあげます」
「さぁ、早く帰ろ」
「お待ちなさい」
がしりと右腕を捕まれた。
幻聴だと思いたかったのに。
ため息をついて後ろを振り向くと
やはり見覚えのありすぎる人物がいた。
「なんですかぁー先生?」
「窓を見てたら陽菜が昇降口出る所が見えたものですから」
職員室から走ってきました。
職員室から昇降口までだいぶ距離あるのによく私だって分かったなこの人。
そういえば地獄耳だし職員室の窓から昇降口見て私を特定したし職員室から走ってきたらしいのに息切れもしてないしこの人の存在もまあまあオカルトだなぁ
なんてことを考えてみる
「もしもしー?」
「ちょっと、隣に来ないでください」
「え、なんでですか!」
「バレるでしょ!」
「俺の陽菜への愛がですか?」
「私の低身長がですよ!!」
…なんで自分で言ってるんだろ
自分の発言に少しへこんだ。
「えーと、帰りましょうか」
「そういえば仕事は…?」
「終わりました」
そういえば鞄持ってるなこの人。
「じゃあ行きましょうか」
にこりと笑って歩き出す吉沢先生の少し後ろをついていく。
「寒…」
「じゃあ手でも繋ぎますか?」
じとりと見ると、冗談ですよと笑われた。
なんか悔しかったから早足で先生に近付いて、手を繋いでやった。
自分から手を繋ぐのはアレだったけど、寒かったし先生の驚いた顔を見れたからまぁいいか。





冷たい右手と

暖かな左手






吉沢先生相手にはつんけんする陽菜もいいかもしれない
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