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■ C.C.Sヒロインの兄があの人だったら

C.C.Sヒロインの兄がDCの松田だったら

お兄ちゃんが死んだ。
仕事中に。観覧車の爆弾の解体中に。自分よりも大勢の命を救うために。
葬式に遺体はなくて、空の棺を見送って。悲しいとか寂しいとかどうしてとか、思うことはあったけど感情が追いつかない。呆然と式を終え気をつかってくれた葵さんたちに言われるがまま、セレモニーホールの待合のソファに座っている。たくさんの人が声をかけてくれたけど、何を言われてどう返事をしたのか全然覚えてない。
そんな抜け殻のような僕の前に膝をつく人がいた。

「君のお兄さんに頼まれたんだ。君が、お兄さんがいないことで困ったら助けてやってほしいと」
「…」
「僕の名刺。仕事上すぐに出られるかわからないから電話よりもメールだとありがたいな。いつでも連絡してくれていいよ」
「……、ふるたに?れいさん、であってますか?」
「ふるやって読むんだ。珍しい字だろう?」

そう笑う人は、刑事にしては明るい金髪を揺らした。

「…お兄ちゃんがいなくて困ることなんて、ないですよ」

ほんの少しだけ、目の前の人は驚いた。

「へぇ」
「お掃除も、洗濯も、お料理もできるし、なんなら、お兄ちゃんの分までやってたくらいなんですよ」
「……すごいね」
「あの性格だから遊んでくれたことも少ないし、買い物だって付き合ってくれないし、体に悪いから控えてねっていったタバコもなくなったし」
「…うん。そうか」
「すぐ喧嘩するし、僕が男のこと遊んでると睨んでくるし」
「目に浮かぶな」
「………でも僕が困ったり、怖い目にあうと真っ先に飛んできて」

視界が歪む。色彩の淡いグレーのスーツが、金髪が、綺麗な青い瞳がぐにゃぐにゃに溶けて輪郭がぼやけていく。どんな顔で見られているのかわからない。でも自分の顔がぐしゃぐしゃなのはわかった。

「もぅ、っ、もうあたまなでてくれなくなっちゃった…っ」

転んで泣いた時、高いところにあるものに手が届かなくて困り果てた時、怖い人に絡まれた時。安心させるように撫でてくれる不器用な手はもう、のばされない。
泣きじゃくる僕にのばされたのは、切なくなるほど優しくて壊れ物に触るような丁寧な指先だった。

「こんなにっ、お兄ちゃんは、優しく、ないです」
「…代役にもならなくて、すまない。ちゃんと兄貴やってたんだね。松田は」

泣きながら理不尽なダメ出しをする僕が泣き止むまで、降谷さんはつきあってくれた。涙を吸って重くなった降谷さんのハンカチを握りしめる。

「ありがとうございました」
「どういたしまして」
「あの、ハンカチ、洗って返します」
「構わないよ。いや、…また僕を呼ぶときに返してくれるかな?」

君は口実がないと頼ってくれなそうだ。ほんの少しの時間で僕の性格を見抜くあたり、この人はできる刑事さんなのかもしれない。

「妹のピンチに颯爽と駆けつけるお兄ちゃんにはなれなくても、困ってる市民の通報に急行するおまわりさんにはなれるからね」

最後に頭をポンポンと軽く撫でて去っていく人の後ろ姿を見送る。

「…、あれ?」

今更だけど、兄の友人と言う割に降谷さんは喪服じゃなかった。ひょっとして、

「……お仕事だったのかな」

申し訳ないことをしてしまった。
お線香の匂いの代わりに、降谷さんのスーツからは甘い、お酒の匂いがした。

2019/04/08 21:25
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