無言時代
うたをうたうには
立ち止まらにゃならぬ
追い抜く人を見過ごして
地面に腰を下ろし
雲の動きを眺めて初めて
口がうたをうたい始める
うたごえをきくには
耳を澄ませにゃならぬ
うるさい音を我慢して
耳に手をあて
よおく注意していたら
やっとのことでうたごえがきこえる
詩人をみるには
涙を流さにゃならぬ
何かに負けて膝をつき
何かに反して声を荒げる
詩人のすがたがぼやけたら
それが詩人のほんとうの姿
そして詩人はいつか気付く
誰にも見られず、聞かれず、うたわれない詩人が
まるで孤独な聾唖者のようで
それならいっそ
自分のこころの中に籠ってしまいたいと
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