「や、ぁっ……くーちゃん、も、ダメ……っ!」
白昼漏らした吐息混じりの喘ぎ声は、決して卑猥な行為によるものではなく、健全なスポーツによって出されたものである。
ダイエットしたいと漏らしたところ、健康オタクの彼が自分のためにダイエットメニューを組んでくれ、現在はその中の一環のランニング中である。
「ちょいペース早かったやろか、大丈夫か?」
もーちょいやから頑張ろな、と、膝を突いてぜーはーと息の乱れた名無しの頭を屈んで撫でてくれる白石。
ランニングが終わればまだまだ筋トレが残っているというのに、なんとも不甲斐ない嘆きで、付き合ってもらっていることに申し訳なく感じた。
水分補給にと渡してくれたペットボトルの水を1/3程一気に飲み干し呼吸を整える。
「ん、ありがと」
ペットボトルを返すと、白石は自身の喉も潤す。
眩しい日差しが透き通ったミルクティ色の髪と、額にじわりと浮かぶ汗。少し上を向いた横顔のしゅっとした輪郭に喉のごつごつとした曲線の対極がなんとも美しい。ごくりの喉の動きが、男の子なんだと感じさせる。
ああ、綺麗だなぁーー。
名無しが見つめていると、白石はにぃっと笑った。
「なんや見蕩れてるんか、そないに俺はカッコええ?」
ついこの間までは、こうやって自分が見つめると恥ずかしそうにそんなに見ないでくれと言っていた彼も、今では茶化してすら来る。ずいぶんお調子者になったものだ。
照れている彼も可愛かったが、今のいたずらに笑う彼も好きだ。
「カッコいいよ。世界で一番カッコいい」
「知っとる。なんたって俺は名無しだけの王子様やからな」
「私だけの……うん、へへ」
なんて幸せなのだろう。
こんな素敵な王子様が、片思いではなく自分のことを大切に思ってくれる両思いなことは、人生でこれとない幸せだ。
「あとね、あのね、カッコいいのもそうだけど」
「ん?」
地面にぺたりと座り込んでいる自分に合わせ、白石は目の前にしゃがみ、手を絡ませた。
名無しが何を言うのか無垢な眼差しを向け、待つ。
どの表情も、なんて絵になる人だろう。
「えっとね……くーちゃんがカッコよくて、綺麗で、可愛くて、好きだなぁって。幸せだなぁって、ずっと続けばいいなぁって、そう思ってたの」
「名無し…………」
ガバッと覆いかぶさるように白石は名無しを抱きしめた。
「あかん、ずるいわ、可愛すぎやろアホ……」
「ちょ、くーちゃんくるし、」
「こんな離したない生き物おるん怖すぎやろ世の中」
名無し。
呼ばれて顔を向けると、彼の目が視界に飛び込んだ。
「離さへんで、俺とずっと一緒に居ってください。好きで好きでたまらんねん。俺を見つめる名無しに、俺やて同じこと思っとるん知っとった?」
「……実は、ちょっと、知ってた」
くすりと笑うと二度目のキスが飛んできた。
くーちゃん、好きだよ。
名無し、好きやで。
こんなやり取りをしているが、何を隠そうここは近所の公園である。
当然、白石たち中学生が休日にランニングに来るような場所であるわけして、同級生も言わずもがなーー
「ーー自分ら、いつまで通路のド真ん中でいちゃついてるん!」
「けっ、んやさん!!?」
思わず白石を突き放した。
「ぐえっ」
「きゃっ!くーちゃんごめん、大丈夫!?違うの、見られるのが嫌とかじゃなくて、びっくりして……!」
「おぉ、平気や、わかっとる。ここが公園なんすっかり忘れとったわ。俺には名無ししか見えとらんから」
「くーちゃん……」
「名無し…………」
「ホンマ、自分らええ加減にせぇや……!」
このあとめちゃくちゃダイエットした。
謙也はペットのイグアナの散歩の続きをするからと離れていきましたとさ。