長編 | ナノ





完璧って、なんやろなぁ。
誰が決めるんやろなぁ。
少なくとも、俺や無いなぁ。





柔らかく太陽の光が差し込む春の心地よい陽気。
誕生月でもある4月、新学期の慌ただしさがようやく落ち着いた頃。

行ってきます、と外に出れば、思わず歌い出したくなるような優しい暖かさに包まれる。
この季節は慣れたはずの通学路が、新しいものできらきら溢れるように毎年思う。

「おはよーさん、今日も綺麗やな」

庭の色とりどりに咲いたポピーに話しかける。
毎朝元気をくれる、欠かせない存在だ。
奥にはチューリップもにこにこ笑っている。

「花はええなぁ……」

道行く先々で花に微笑み、猫に挨拶し、ピカピカのランドセルを見遣り、すっかり穏やかな気持ちになったところで学校に着く。あっという間だ。
時間にたっぷり余裕を持たせて家を出たのでまだまだ始業まである。
いつものローテーション、部室のドアノブに手を伸ばす。――っと、あかん、禁止されとるんやった。

新入生お笑いコンテストの審査期間のため、全ての部活動が禁止され、一年生はもちろんのこと、上級生も審査員らしくお笑いに集中するように、とのことらしい。
うちに来たルーキーがテニス馬鹿なため、「うっかりテニスに触れさせたらあかんなぁ、自主練も出来ないようにしたろ」とオサムちゃんが部室の鍵を回収してしまった。

「あかん……忘れとったわ。どないしよ」

朝練に勤しむことしか頭になかったから、始業まで時間を潰そうにも思いつかない。
ランニングでもするかと振り返る。

「わっ!!」

すぐ後ろに人がいたらしい。

「居ったん気付かんかったわ、堪忍な!」

見覚えのない女生徒にぶつかりそうになり、思わず謝罪する。
女生徒は身長差のある俺を見上げ、顔をじっと見たかと思えばクッと笑う。

「自分、開かないといかんを掛けたん?独り言でそれはレベル高いわ」
「えっ?――あ、」

くつくつと腹抱えて笑う女の子。
自分が洒落を言っていたことに気付き、意図がなかったにせよ恥ずかしくなる。

「どないな顔してそんなん言うんと思ったら、見た目までレベル高いてそんなん笑うわ」

あははギャップやわー。笑いながら涙を拭う素振りを見せ、初対面の女の子にからかわれる立場の無い俺。
この状況をどうしたらいいのかわからず戸惑っていると、
「あ、すんません、ちゃうんよ」
女の子は手に持っていたものを差し出す。

「後ろ歩いとったら君がこれ落とすん見えたから、届けよ思て。せやけどこの身長やろ?やっと追いついたら独り言聞こえて、なんや面白うて」

どうやら途中、生徒手帳を落としたらしい。

「ほんまや俺のや、おーきに!」
「白石クンて隣のクラスやんな、うち無名名無し。よろしゅう」

まだ幼さの残る可愛らしい顔立ちと、大人なデザインすぎて似合わない大きな黒縁メガネ。健康的な肌の色に馴染む程よい長さの暗い茶髪。
私服ならまだしも制服のワンピースには似合わない、チラリと光るごついカフピアス。
なんとも奇抜な見た目をしている。
けれどそれを嫌に目立たせない、なんとも言い難い独特の雰囲気があった。

「おー、よろしゅうな無名さん!」

そこからは少し雑談をした。
聞けば謙也の知り合いらしい。俺がテニス部室に入りかけるものだから、もしかしてと訊ねてきた。
あいつも顔が広いなぁ。

ほんならこれで。無名さんは手をひらひらさせながらあとを去る。

時間が経っていたため、自分も教室に向かおうか踏み出し、足を戻す。

「……あないインパクトあったら知らんわけないよなぁ?」

見たことも聞いたこともない、先程の彼女を思い出し、首を傾げる。

朝一番のチャイムが学校生活の始まりを告げた。





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