「兵長、好きです。」
「そうか。」
なにを言ってもこればかりだ。兵長は私の気持ちに答えてはくれない。
「兵長、私「なまえ。」…はい。」
これが出たらもうヤメろの合図。どんなに兵長が好きでも、どんなにアピールしても彼はきっと振り返ってはくれない。
初めてフられたときはそれはツラかった。ご飯ものどを通らなくなって。でももう吹っ切れてしまった。何度も何度も告白するうちに、この恋は報われないことに気づいた。報われないのならせめて彼の癒えない傷になりたい。なんて思ってしまったのは不純だろうか。彼の膨大な記憶の一部に自分を食い込ませて、私を忘れられないようになってしまえばいい。なあんてペトラに言ったら病んでるねって言われてしまった。確かに病んでるかもしれない。でも、ホントに好きなんだ。

「かふっ、」
自分の血で目の前が真っ赤に染まる。顔に血を浴びてしまって拭おうとしてもその手はもうない。ああ、終わるんだ。ふと目の端にモスグリーンの外套が揺らいだ。
「なまえ…か?」
「へ、ちょ?」
彼の顔色がサーッと引いていった気がした。
「なにやってんだお前は!!!」
「?ごめ、なさ。」
「撤退するぞ!俺がお前を連れて行く!」
「でも、へーちょ、」
私もう両足も無いんです。その言葉はのどの奥に吸い込まれてヒューっという音に変わった。
ぐいっと私のダルマみたいな体を持ち上げると立体機動で森を駆ける。
「死なせねえ!絶対に!!」
くらくら目の前が揺らいで、実感した。私死ぬんだ。でも兵長の腕の中で死ぬならそれでもいいかもしれない。
「へ、ちょう。」
「…なんだ。」
兵長はこちらを見ずに答えた。きっと兵長も私が死ぬということを知っている。それでも、私を抱えて走ってくれるなんてやはり彼は優しい。
それに私の死ぬ瞬間を誰か共にすごせる、それだけでいいのだ。
「へーちょ、私は…へ、ちょうの消えない、傷になりまし、た…か?」
兵長がやっと此方を見た。その顔は苦痛に歪んでいて。私は彼の中に残れたことを実感した。
「よかっ、た。へー、ちょう、す」



腕の中で息絶えた女を抱いて棒立ちしてどれくらいたったのだろうか。俺ではこいつを守れない。そう思ったから気持ちに答えなかった。結果こうなったのだが。
なまえの死に顔は綺麗に笑っていた。なあなまえお前は幸せだったか?なまえの体を木の上に寝かせる。
────私は兵長の消えない傷になりましたか?
彼女の声が何度も反復した。
この傷はきっと死ぬまで消えない。


0801

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