夏休み幽霊パロ


カチャンッと甲高い音が部屋中に響き渡った。はっとして拾い集めようとすると指に鋭い痛み。ああ、またやってしまった。

「エレンよ、最近気を抜きすぎだ。」
「…はい。」
今週に入って4皿目。兵長が呆れてしまうのも無理はないだろう。テープを巻かれた指先を見つめる。そこはジンと熱を帯びていた。
「なまえの事は忘れろ。仕方がなかったんだ。」
「…っ。は、い。」
右手をみるとあの日のことを思い出さずにはいられなかった。

みょうじなまえ。リヴァイ班所属。華奢な見た目の割に彼女は他の誰よりも俊敏に動いていた。
「エレン、みんなには内緒だよ。」
そしてよく、俺の牢屋に来ては甘い砂糖菓子を皆には内緒だと言いそっと俺の手に乗せるのだ。ふわりと笑うその表情は兵士のものではなかった。しかし、彼女についた二つの大きな瞳は意志の揺らぎを感じさせないほど強かった。それはきっとなまえさんが覚悟を決めた兵士だからなのであろう。まっすぐに俺を見つめていた。
「エレン、手を離しなさい。」
あの時だってなまえさんの目は覚悟を決めた兵士の目で、一片の揺るぎも無かった。
「いや、ですっ!!」
ぎしぎしと軋む手。体中が悲鳴を上げていた。
「私はもうガスも切らしたし、刀もなまくらになってしまった。それに、私を落とせば確実にアナタは生き残れる。エレン、」
私の手を離しなさい。

右手はもう軋んでいなかった。体も軽くなっていた。かたかたと震える右手を押さえると今度は前進が震えた。巨人は下で群がっていた。まるで俺なんかに興味をしめしていない。
「なまえさん…」


そして俺は、俺は「エレン。」
ハッと顔をあげるとなまえさんが立っていた。
「泣かないでエレン。」
「なまえさ、」
歩み寄るとなまえさんは綺麗に笑った。
「エレン、みんなには内緒だよ。」
瞬間唇になにか押し当てられた感覚があった。咄嗟に目を閉じていた俺は目をパッとかっぴらいた。そこにはなまえさんはおろか、人っ子一人いなかった。
「は、は…俺の、妄想、?」
何故だか堅く拳を握りしめていたことに気づいて開くとそこには小さな砂糖菓子が入っていた。
「なまえさ、ん。」
ポタポタと水滴が砂糖菓子に落ちて溶けてゆく。確かこの砂糖菓子はなまえさんの国のお菓子。金平糖、だったか。ひとつ口に含むと、口の中でだんだんと溶け甘い砂糖の味が広がった。少しだけ涙のせいでしょっぱくなってて、それがまた俺の涙を溢れさせる原因となった。
「おいしいです。」
昔、彼女に言ったようにそっと呟くとどこからともなくよかった。と呟く声が聞こえた気がした。
なまえさんの触れた唇はまだほんのり湿っていた。


────────補足
ガスが切れて下に落ちそうになった彼女を助けたけど、その手を離してしまったエレンのトラウマ話。

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