死ねた。


「なまえ…。」
目を閉じるとうっすらとお前の影が映った。今日の朝まで使われていたこの部屋に、もう主はいない。
「リヴァイ。」
そう呼ぶなまえはもういない。今回の作戦もまた失敗であった。成果もなく、あるのはただ友と大切な人の死のみ。
「なまえよ、海は見なくても良かったのか。」
返事は返ってこない。筈だった。
「海、見たかったよ。」
「なまえ?なまえなの、か?」
声に振り返るとそこには俺が心底陶酔したなまえがいた。顔は青白く表情は余り伺えない。だが、青白い顔は俺が今まで幾度となく見てきた死人のそれと同じだった。
「海、見たかったなあ。」
「なまえ。」
なまえはもう一度そう呟くと口元に笑みを浮かべた。相変わらずそれ以外の表情はよく分からない。
─ああ、なまえは死んだのだ。
なぜだかひどく実感させられてしまった。なまえよ、お前はその短い人生の間に何か見いだせたのか?俺で良かったのか?俺の前に化けてでるほど伝えたいことがあるのだろうか。
素直にもう一度会えて嬉しいと思った。一歩歩み寄ると、なまえは一歩離れた。
「なぜだ?」
「リヴァイは海を見てね。」
初めてなまえの表情が見える。泣きそうな、それでいて少しだけ幸せそうな。よく分からない表情だった。そうだコイツはいつもころころと表情が変わる奴だった。
なまえは静かに俺の手を指さす。
「バカなことはしないでね。」
なまえは笑う。俺も笑った。力を緩めた手から剃刀が落ちたのが分かった。静かな部屋にカチャンとこれまた静かな音が響く。なまえはうつむいた。
「海…リヴァイ、見てね。」
「なまえ…?」
心なしかなまえはどんどん薄く、声も遠くなっていく。必死で手を伸ばした。
「リヴァイ。」
「行くな、なまえっ…!」
手が届きそうだ。そう思ったときふとなまえが顔をあげた。その顔は笑顔であったが、一筋の水滴が伝っている。
「リヴァイ、好きだった。」



「リヴァイ、ここにいたんだね。」
ハンジがドアを開け入ってくる。ノックくらいしろと、いつも言っているのにコイツは守らない。
「なまえ達を燃やしてきたよ。」
「そうか。」
窓枠に寄りかかり空を見つめる。今夜も暑い。
「なまえの顔、幸せそうだったよ。」
「…そうか。」
目を閉じてももうなまえの顔は浮かばなかった。きっともう、なまえに出会うことは無いのだろう。床に落ちた剃刀が月明かりに照らされキラキラ輝いていた。
「なまえと海を見たかったんだ。」
俺だけじゃダメなんだ。俺一人が海を見たって。ハンジが後ろで鼻を啜っているのが聞こえる。パタンとドアの閉まる音がして俺はまたなまえの部屋に一人になった。
「なあ、なまえよ。お前はこれからどこへ行くんだ。」
空にはまだ細く白い煙が立っていた。あれはなまえなのだろうか。穏やかな風にのって煙の香りが微かに漂った。きっと何処かでまた誰かが夏を燃やしているのだ。

0716

<補足>
壁外調査で死んだ彼女を追おうと自殺しようとしたけど、彼女の霊に止められちゃった。彼女燃やしちゃった。
みたいな話です。
分かりづらくてすみません。


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