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拍手ありがとうございます。以下、お礼小説となります。四方将神より、青竜と神琉





早緑月に祈りを奉げ

 透き通るような大理石造りの廊下をすたすたとあるく。沓(くつ)を履いてはいるがそれでも春先の冷たい空気が床から伝ってきて、思わず神琉は体を震わせた。
 ここは水晶宮。東の青竜がすべてを納める竜族の拠点だ。漆喰の壁にはとりどりの絵の具で海中の植物の様子が描かれており、その中を墨の濃淡だけで描かれた魚がすい、と横切っていく。
 海底のようだが海底でない。人間界とは全く異なる空間を神琉は泳ぐように歩いていく。
「おお、巫女殿。いかがされた」
 向かいからやってきた壮年の男が声をかける。竜族の重鎮だ。恭しく礼をする。
「我らが王に新年の挨拶を」
「む、王にか? いましがた儂も行ってきたがまだお目覚めではいらっしゃらなんだ」
「それは……有り難うございます」
「いやいや。しかし困ったものだの、そろそろ起きていただかねば帝のご機嫌伺いに遅れてしまう」
 顎に手を当てて眉根を寄せる。その様子は余りに慣れたもので、思わず神琉はため息を吐きたくなった。
「私が、お願い申しあげて参りましょう」
「そうしていただけるとありがたいが」 
「構いませぬ、王がいらっしゃらないとなれば困るのは私も同じですゆえ」
「ふむ、そうか。では頼むとしよう」
 よろしく神琉殿、と言われ神琉は黙って頭を下げた。長い髪が下へ流れ落ちる。
「……善い一年となりますよう」
「うむ、神琉殿もな」
 男の沓が静かにその場を去っていく。それを頭を下げたまま見送って、やっと神琉は頭を上げた。そのまま、奥へと歩き出す。その背を追うように魚影がすい、と壁を泳いだ。

 きい、と観音開きの戸を開き室内へ足を滑り込ませる。すれば外と変わらない冷えた空気が神琉を覆った。
「失礼いたします、青竜様」
 勿論応えはない。どうするべきか一瞬逡巡した後、仕方がない、とその寝台を覆う薄い幕をまくり上げた。
 視界に飛び込んでくるのは寝台にうつ伏せになり仕事中のように眉間に皺を寄せた青竜の姿で、神琉はふう、と溜息をついた。この、些か扱いの面倒な上司が睡眠をじゃまされることをひどく嫌っているのは分かっている。だが、人間誰でもやらねばならないときがあるのだ。ふう、ともう一度溜息をついて神琉はその自分より遙かにたくましい肩に手をかけた。
「青竜様、お起きください」
 ん、と皺の寄った眉がいっそうひそめられる。まだ、起きる気配はない。仕方がなく、ゆさゆさと肩を揺する。
「青竜様、起きてください。帝のお祝いに遅れます」
「……新年の、賀か」
「え?」
 強い力で手首を捕まれて息が詰まった。うつ伏せの、後ろから前にかかった黒髪の間から鋭い視線が神琉に投げかけられている。
「私を起こしにくるとはなかなかの度胸だな、神琉」
 視線は人を射殺せるほど鋭いのに言っていることが何とも小さい。要は、睡眠の邪魔をするな、ということである。
「……好きで来たわけではありません、帝のお祝いに遅れると申し上げたはずです」
「同じ事だ」
 そう言って、再び枕に突っ伏す。握り込まれた手首はじんじんと痛むのだが、青竜は外す素振りすら見せない。いい加減、寝台に顔を近づけるための中腰の姿勢が辛くなってきた。
「……青竜様、いい加減、手を離してくださいませんか」
 そう言って聞き届けられるわけもない。仕方がない、失礼だとは思いつつ寝台のはしに腰掛ける。さあ、どうすればいいだろうか。
 青竜が、放っておけば目を覚ます質だと言うことは知っている。しかし今日はそれでは間に合わないのだ。
 ひとつだけ、策がないといえなくはない。ただ、それは青竜という人智を越えた存在に行うには甚だしく非礼であると言うだけだ。そうしてもいいだろうか、と悩むが、もはやそれしかない。仕方がない、そう、仕方がない。
 掴まれた手首はそのままでどうしようもない。窮屈な姿勢のまま、覆い被さるように青竜の耳に顔を寄せる。すう、と深く息を吸った。
「起きなさい!」
 びく、と青竜の肩がふるえた。いくら寝こけているとはいえど彼は武人だ。目を覚まさないはずがない。上に神琉が乗っている為に体の向きを変えることができず、そのまま青竜は口を開いた。
「……神琉、今なんと言った」
「起きなさい、と申し上げました」
「私に向かって?」
「ええ、そうしてくださらないと皆迷惑だったので」
 解放された手首を押さえながら立ち上がると、渋々青竜が身を起こした。状況は理解しているらしい。それでも不機嫌そうな視線を神琉に投げてくる。それに向かって頭を下げた。
「それでは、私は失礼いたします」
 ん、と青竜が不思議そうな声を上げた。
「お召し替えをなさらねばならないでしょう」
「……ああ、そうか、おまえがいるから忘れていた」
 それは、神琉がいるすなわち仕事の場と認識されているという事だろうか。光栄なのかそうでないのか測りかね、曖昧に神琉は笑みをこぼした。
「……では、本年もよろしくお願いいたします」
「ああ、加護を授けよう……と言いたいが、年初めの一声があれではな」
「青竜様ご自身の所為かと」
 ひょい、と青竜が肩をすくめた。聞きたくないことは聞かない主義だ。はあ、と溜息をつく。
「今年も良い一年となりますよう」
「私はなるようにするだけだが」
「青竜様にとって、と言う意味ですよ」
 先ほどの曖昧な笑みとは違う、本心からの笑みを見せてそう言えば、青竜が驚いたように目を見開いた。


この小説のお題は、Fortune Fate様より頂きました。
photo by sky ruins





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