かつかつ、と明確な意思を持ってその音は歩み続けて厳つい身体をした黒スーツの男たちが慌ただしく仕事をする部屋を抜けた。
そして目的の部屋の前まで来ると後ろの慌ただしさを気にすることなくきっと静寂の世界への入り口であろう扉のノブへと手を掛けコンコン、と形式だけのノックをして扉を開けばソファに横たわる人の姿に臨也は思わず声を上げて笑ってしまった。
ここまで疲れを露わにして、ソファへと寝そべっている四木の姿は大変珍しく、ここにあの赤い髪をした男が居れば臨也と同じように、下手をすればそれ以上に声を上げて大笑いしたことだろう。

こうやって横になっているという事は睡眠不足でここの所ずっと書類仕事ばかりだったのだろうと伺える。
インテリヤクザなどと言われる四木の事だ、仕事量も少なくはなかったのだろう。
それに幹部が目を通して上へと出さなければならない書類だってあるはずだ。
風本なら自分の分は目を通すだろうが赤林は気まぐれ、青崎はきっと目を通そうとも思わないだろう。
その溜まった書類が四木の所へと回されてくるのは頻繁にではないものの、よくあることだった。

「ふふ、随分お疲れのようですね、四木さん。」
「折原さん…私だって疲れる事はありますよ。」
やはり疲れきっているのか四木の声に覇気はなく、顔も伏せたままであった。
そんな四木の姿に臨也は目を見開かせ『本当に疲れきっているのか』と思うと一つ、四木に対してしてやりたい事が出来てしまった。

「それはすいませんでした。
…膝でもお貸ししましょうか?」
「………」
「え、四木さ、」
クスクスと笑いながら臨也が思いついた事をそのまま言えば寝そべっていた四木が無言で少し身を縮めて臨也が座れるほどのスペースを作った。
それに臨也は戸惑った。
こうして四木が何も言わず身を縮めたという事は膝枕をしても良いという事なのだろう。
いや、寧ろこれは『しろ』と無言の圧力を掛けてきているような気にもなる。

「貸してくれるんでしょう?膝」
「あ、はい…貸しますけど…」
「じゃあ早く座ってください。」
「…分かり、ました…」
中々扉の前から動こうとしない臨也に対して四木は焦れたのかニヤリと不敵な笑みを浮かばせ座れと言った。
そんな四木に臨也は戸惑いながらも従おうと足を進める。
自ら言いだした事と、疲れきっている四木が望み、その疲れを癒せるというなら膝枕ぐらいお安いご用だったのだが、いざするとなると羞恥心が湧きあがって来る。
その羞恥心を抑えながらソファへと座ると同時にまた四木が動き、臨也の膝へと頭を乗せた。

「…ホントに、お疲れなんですね…来ない方が、良かったですか…?」
「…いや、大丈夫だ。」
「でも…」
「少し寝る。
起きたら相手してやるよ。」
笑いながらそう言うと目を閉じた四木の頭を緩く撫でて髪を梳く臨也の手つきは起こさないようにと控えめなものだった。

この部屋の外ではきっと男たちがまだ慌ただしく動いているのだろう。
だがこの部屋には静寂が響き渡っている。
その部屋の主である四木は静寂という雰囲気を持ちながらも何処か乱暴な雰囲気を持ち合わせていた。
相反する雰囲気を持つこの人間に臨也は惹かれていた。
普段は人の迷惑など顧みない臨也が四木にだけは迷惑をかけたくない、力になりたい、と思っていたのもそのためだった。

思考を巡らせていれば小さな寝息が臨也の耳に入った。
四木が寝たのを確認するとふわりと微笑んだ。
警戒心の強い男がこうして眠ってくれてるのは自分に対して気を許していてくれてるのだ。
心惹かれる男に『お前は安心する』と言われているような気がして臨也は嬉しくなった。

「おやすみなさい、四木さん。」
そうして臨也は己の膝の上で眠りに着いた四木の額に愛おしげに口付けたのだった。


与えるならば    
無償の愛を



***
ピクシブにて大好きな牛さんのお誕生日に捧げた四木臨。
牛パパらぶ!(゚∀゚)


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