家具や床が白で統一された部屋中に広がる饐えた汗の臭いと煙草の匂い。
ほんの少し前から俺の身の回りを包んだこの匂いは、もう既に俺の身体中いたるところに染みついている。
それこそ、普通に生きていたなら他人には見せなかったであろう秘められた場所にまで染みついているだろう。

俺の身体がこの匂いに包まれることが日常となってしまっているのも全部、全部この人のせいだ。
そう思う気持ちはあるけれど別に俺はこの人を憎んでるわけじゃない。
寧ろ俺はこの人を愛しいと思ってすらいる。

だからこそ、俺はこの人のためになりたいんだ。


愛他主義



「ね、四木さん…今日ね、おもしろいものを見つけたんだ。」
「おもしろいもの?」
「うん、新羅のね幼馴染らしいんだけど…すっごい怪力でね。
映画とかに出てきそうな化け物みたいだった!」
「そうか…。」
事後のピロートークでする話じゃないのは分かっていたけれど、この人と今日会ってまともに会話したのはこれが初めてだったのだから仕方がない。
この人の住む部屋に来て、俺はすぐにベッドに連れ込まれたんだもん。
にこにこと、今日あったことを話せば隣で煙草を吸う四木さんはなぜか不機嫌になっていた。
その原因はきっと俺がする話にあるのだろうけど、理由が分からなくて四木さんをただ見上げるしか出来なかった。
「…?四木さん?」

「随分、気に入ったんだな。」
「だ、って…駒に出来たら四木さんのために使えるじゃない。」
耳元で低く囁かれた四木さんの声に身体が震えた。
この声は機嫌が悪く怒ってる声だった。
何が気に入らなかったのか、本当に分からなくて言い訳のように四木さんに言った言葉は真実だった。
だけど四木さんは俺の言う事なんて信じられない、とでも言うように鼻で笑っただけだった。
俺はまだ子供で、四木さんのそれが嫉妬だなんて気付くはずもなく、俺は焦る事しか出来ないでいる。

「俺は、四木さんのためならなんだってするって言ってるのに、信じてくれないの?」
すり、と猫が甘えるように四木さんの胸元に顔を埋める。
そうすれば少しかさついた手がゆっくりと頭を撫でてくれることを知ってるからだ。
「ガキの言う事なんて信じられるか。」
そんな風に言葉では切り捨てるくせにこの人の手つきは優しいままだ。
それが俺をこの人に縛りつけ溺れさせるためのこの人の手管だ。
出会った時からずっと、甘やかすくせに酷く突き放されていた。
飴と鞭の使いようが絶妙で、俺はこの人から離れられないでいる。
「酷いね、四木さん。」


この人の身体に、この白い部屋に染みついた煙草の匂いが俺の身体を支配する。
俺の最期の瞬間はきっとこの人が創るんだろう。
俺に飽きて捨てるか、俺が邪魔になって殺すか。
いずれにしろ、俺の命はこの人に出会ってからずっとこの人の掌の上だ。

俺は最後のその日までこの人の物でいる。

「ねぇ、四木さん。全部全部、四木さんに捧げるためだよ。」

俺があの化け物に興味を持って、駒にしようとしたのも、全部、全部、四木さんのため。
なのに四木さんは必要ないって言うんだね。
その一言で俺がどれだけ傷つくかも知らずに。
貴方の性だけを満たすオンナでいるつもりなんて、ないんだ。
俺を対等に見て欲しい。
そんな思いさえ、貴方は煙草の火を消すようにもみ消すんですね。


だけど、だけど四木さん、本当に酷いのはね。
俺を傷つけたと察した瞬間に「俺にはお前だけで良い」だなんて言って俺の頭を撫でるその優しさだよ。
期待させるのに明確な言葉をくれないだなんて、そんなの、酷いじゃない、四木さん。
俺はそんな言葉が欲しいんじゃないんだ。

ねえ、貴方にとって俺は都合のいい、オンナですか。
俺を一人の人間として、見ててくれてるのかな。
沸々とどす黒い感情が芽生えるけれど、この人の腕に抱かれてしまえばそんなものは吹っ飛んでしまう。

それも貴方の計算なんですね。
けっして自分に牙を剥けないように俺を宥めるんですね。
そして俺は今日も絆されて、俺の身体は、心は、この人の匂いに包まれて眠るんだ。

俺が眠った後に俺の額に、頬に、唇に、祈るように愛しむように口付けを落としていく四木さんの存在も知らずに俺は眠る。
四木さんが俺を大切に想っているからこそ、突き放すような、甘やかすような、そんな言動をとっているとも、知らず、俺は眠るのだ。


***
盲目的に四木さんが好きで四木さんのためなら何でもする覚悟がある臨也と危険な目にあって欲しくないと思う四木さん。
お互いがお互い、言葉が足りないからすれ違ってしまう、そんな四木臨でした。

盲目的愛情」の涼野さまのみお持ち帰りください。
「両片思いな四木臨」になっているのかやや不安です;
お気に召しませんでしたら返品可能ですのでお気軽にお申し付けください!
それでは本当に相互リンクありがとうございました!!



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