企画 郭の蝶蝶 様提出。 郭主人四木×男花魁臨也 *** (わっちを愛しいと思いんすかぇ? でありんしたらわっちの願いを聞いてくんなまし。) 媚びを売って . 愛を買うのです 俺はこの郭を舞う蝶だった。 客は皆、俺を憐れみ、気に入った者は身請けしようとするけれど別に俺はこの廓にただ囚われている蝶というわけではない。 だって俺は自ら望んでこの廓に居続けているのだから。 俺がこの郭の世話になり始めたのはこの男色楼の主だった四木さんに買われたからだ。 雪の降るとても寒かった日、あの日俺は両親に売られた。 俺は男の割に華奢で顔も綺麗だったからかすぐに人買いは男色楼へと売り渡した。 まだまだ幼かった俺は両親に売られた事は理解できていても売られた先がどういった場所なのかは理解できていなかった。 それでも店主だった四木さんは俺を見てゆるく微笑み一言「綺麗だ」と言ってから俺を引き取ると言ったのだった。 それから暫くは俺が貧相な身体だったから食べ物を与えられ、作法を教えられ、そうして夜にはこの楼閣では男が男に身体を売るのだと知った。 俺は四木さんが俺を売り物にするために人買いから買ったのだと、俺を見て言ったあの言葉は、頬笑みは、俺が商品になると思って出たものなのだと理解した。 その瞬間、俺は少しショックを受けた。 だってこの人にとって俺は利用価値があるかまだ分からない商品で、愛してくれるような存在ではなかったのだから。 そして俺は四木さんに商品として見られるのではなく愛して貰える存在になるにはどうすれば良いのか考えた。 四木さんに愛されるにはどうしたらいいか、そんな事を子供ながらに考えた結果思いついたのが『この楼閣で沢山お客さんを取って、沢山稼げば良い』ということだった。 それからは四木さんに愛されるために手練手管を磨いた。 そうして今に至る。 俺はこの楼閣一番の遊男となった。 やはり見目麗しいというのは良いことだ。 だってそうじゃなかったらこうして四木さんに買われてなんか無かったし楼閣一番の遊男にもなっていなかっただろう。 俺にとって男に身体を売ることなんていうのは全然苦痛ではなかった。 自ら望んで客を取る俺を他の遊男たちは俺を"淫乱"だとか"売女"だとか蔑んだ。 だけどそれは客に抱かれるのが好きだからじゃない。 この仕事が好きだからじゃない。 全ては「四木さんに愛してもらうため」なのだ。 四木さんに愛されるためじゃなかったら、さっさとこんな所から抜け出してるに決まってる。 *** 「臨也」 「…四木さん、今日は頑張ったんだからご褒美頂戴?」 客が帰って自分の部屋の布団でごろりと寝ころんで居たら襖が開き其方へと視線をやれば廓の主人である四木さんが立っていた。 四木さんは寝転がる俺を見て少し顔を顰めると小さくため息を吐いた。 多分俺の身体を見てその有様に出てしまったのだろう。 今日のお客は下手なくせに嗜虐趣味があるから俺の身体はボロボロだった。 それでも抵抗も嫌がることもせずにちゃんと相手したんだからご褒美ぐらい、くれたっていいでしょ?そんな思いで俺は四木さんを見上げていた。 「四木さん…俺の身体、綺麗にして?」 布団の上で寝そべっていた俺は甘えた声を上げて部屋の入口に立つ四木さんの元へと擦り寄り四木さんの着流しの裾を掴んだ。 そして男を誘うような眼で見上げて首を傾げる。 こんな風に誘っても四木さんは客のように喜ぶこともせず、ただ顔を顰めるだけだった。 飼い主である廓の主人にこんな態度をとっても四木さんは俺を折檻することはない。 だって身体に傷をつけて困るのはこの廓で四木さんだもの。 それに四木さんだってこの身体を好いてくれている。 こうして、俺が強請れば四木さんは俺を抱いてくれる。 ねぇ、うんと愛してよ。 俺は四木さんに愛されるために媚びを、身体を、売ってるんだから。 「まったくお前は…。」 そんな俺を呆れながらも抱いてくれる四木さんは凄く優しい顔をしてる。 ねえ、自惚れても良い? ちゃんと愛してくれてるんだって、思っても良い?四木さん。 立っていた四木さんは屈みこむと俺の腰を掴んで持ちあげ、部屋に敷かれている上等な布団の上へと放り投げられる。 その時ゆるく結んであった帯が解けて、ほとんど身に纏っていなかった赤い花の模様で彩られた着物の前が肌蹴て傷ついた身体が露わになった。 そしてほんの一瞬、俺の傷ついた身体を目にした四木さんは酷く辛そうな顔をした。 俺の身体が傷ついてたら哀しいのかな。そう考えるよりも先に俺の思考は四木さんの愛撫に気を取られてしまった。 四木さんの指は傷ついた個所を労わるように触れたかと思うと更に傷つけるかのように触れてくる。むず痒い痛みと本格的な痛み。 その両方を的確に、俺の身体へと与えてる四木さんの指を俺は嫌いになる事が出来ないでいる。 「ん…っあ、い…ッ!」 「…これじゃ、暫く客は取れないな。」 そう言った四木さんの顔は、どこか嬉しそうな顔をしていた。 「あ、あっ…じゃ、あ、その間…四木さんと、一緒にいて、いい…?」 「―……」 そうやって、喘ぎ声を混じらせながら尋ねれば四木さんは答えるかわりに口づけをくれた。 それだけで十分だった。 この人はけして言葉にしないけど、それでも、俺を愛してくれている。 *** こうして俺は客に媚びを売って、四木さんの愛を買うのです。 だってこういう口実でもなければこの変に真面目な人は俺を抱いてくれないんだもの。 きっとこの人は、俺を拾ってきたことを後悔している。 いや、拾って来たことに対してじゃなく、拾った俺を自分の店で働かせ出したことに後悔してるんだ。 郭の蝶なんかにしなければ俺は四木さんだけの蝶でいれたのに。 これはきっと、俺がそう思ってるだけだろうけど、それでも、四木さんが俺を抱く時の、俺の身体に残った他の男の痕を見つめるあの、燃えるように熱い目は俺に嫉妬してくれてるんだって想わせるような、そんな目をしてるんだもの。 嗚呼、かなしかな。 囚われているつもりはないのにこの郭が俺の愛を邪魔するのです。 (でありんすから、貴方様もわっちの愛のためにわっちをを買ってくんなまし。 そうすれば、わっちは旦那様から愛されることが出来るのでありんすから。 ) *** 四木→←臨也だけど郭という囲いが邪魔をする…みたいな事を書きたかったのですが…。 こんな素敵な企画に参加させて頂き有難うございました! |