解語之花この出会いは偶然巡って来た。 本当に偶然だったのかは当人たちにも分からないがそれは偶然としか言いようがなかった。 その偶然は今から少し時間を遡ること数十分前に訪れた。 この日の夕方、絵画販売店と銘打っているが粟楠会に属す四木が事務所として使用しているあるビルの一室。 そこには部屋の主である四木と四木が担当している情報屋・折原臨也、そして四木と同じく粟楠会の幹部である赤林が居た。 元々、四木と折原は仕事のためこの部屋に居たがそこへ突然赤林が来訪したことによってこの奇妙な組み合わせが出来てしまったのだった。 この部屋の中で、いやこの建物の中で一番、この場所に似つかわしくない人間とも言える折原臨也は赤林の登場に少し焦りを覚えた。 四木と同じく粟楠会の幹部である赤林が此処に来るという事はこれから何か重要な話が四木と赤林の間で話されるのだろう。 となると、大方の用事は済んだ自分は退室させられるか。 その話を聞きたい情報屋としての気持ちは有るもののやはり退室した方が身のためか。 そう考えた折原は自然、座っていたソファから腰を浮かせていたのだがそれに気付いた四木が視線で『退室しなくて良い』と伝えた。 それに気付いた折原は少し気まずいと思いながらも四木の正面よりも左側、窓に近い位置へと座りなおした。 「何の用です。アポも無しに。」 座りなおした折原を見たあと何処か刺々しい雰囲気を身に纏いながら赤林に尋ねる四木に赤林は四木の様子を特に気にするでもなく「いやぁ、随分暇でねぇ。来ちゃいましたよ。」と軽く、本当に軽く答えた。 そして答えると同時に赤林は折原が座るソファに少しだけ折原と距離を空け座り込んだ。 ソファが沈む感覚に一瞬肩を強張らし、四木と赤林の様子を見つめる折原は内心、後悔していた。 『こんな事になるならさっさと帰ればよかった。』 その後悔は退室した方が良いかと考えるた時以前のものだ。 実を言うと折原は既に頼まれていた仕事の報告は終えていたのだ。 だが、久方ぶりに四木と会えた折原は四木との会話を楽しむために居座り続けていた。 四木も帰らぬ折原を咎めるつもりは無かったのか話し相手になってくれていたのだが其処に突然この男、赤林が現れた。 あからさまに機嫌が急降下した四木にそれに気付いていながらニマニマと厭らしく笑う赤林。 この二人の相容れぬ関係性に折原は酷く緊張していた。 ただでさえ自分はまだ年端もいかぬ、それもこの裏社会に半分しか足を突っ込んでいない学生だ。 隣に座る赤林に警戒を抱きつつ次の行動を謀る。 「ねえ…情報屋さん、だよねぇ?君…おいちゃんのこと、知ってるかい?」 だが、その前に距離を詰められてしまっては意味は無かった。 「っ…四木さんと同じ、粟楠会幹部の赤林さん、でしょう?」 「そう。…ふうん…おいちゃん、初めて君を見るけど…中々の美人さんだ。 これじゃぁ、四木の旦那が気に入るのも無理ないかなぁ。」 じとっ、そう折原を見つめる赤林の眼は、片方を刀傷で失ってるというのに獣のようだと折原は思った。 いくら学校で平和島と毎日のように殺し合いをしているとは言え、それはやはり子供同士の喧嘩の延長でしかない。 こういった…人を脅かすのが本職とも言える男の眼に睨まれれば流石に背筋には冷たい汗が流れてしまう。 『ああ、視線で人が殺せるとはまさにこの事だ。』 怯える片隅でそんな風に冷めた考えを持つ自分が居ることに折原は驚いた。 それすら飲み込もうとするこの赤い男に、更に怯えながら身を捩った。 「赤林さん。余り怯えさせないでください。」 「ん…ああ、ごめんねぇ。」 その瞬間、口を閉じていた四木が小さく、子供を窘めるような声で言い放つと赤林は折原の表情を見ると嚇かしてしまっていたかと反省した。 「いえ…。」 「うん、でも本当に美人だねえ、情報屋さん。」 「…ありがとうございます。」 本当にそう思っているのか顎に手を当てて言う赤林に折原は少しぎこちない笑みで礼を述べた。 何が目的なのか分からないこの赤林を折原は苦手だと思っていた。 単純なように見えてその実、何も見せてはくれない男。 四木と似ている、だが四木のようにお堅い、という印象は無く、どちらかと言うと軽い男に見えた。 「そんな綺麗な顔で情報屋だなんて遊びしてたら…困ることもあるんでしょ?」 「あの…」 「ん?ああー…これはセクハラだったかな? ごめんねぇ、おいちゃん加減が分からなくって。」 明らかに個人的な興味だと分かる赤林の問いの返答に困ったという顔をする折原に赤林は背後から突き刺さる視線にしまったと思う。 四木は本当にこの子供を気に入っていて、手を出されるのが気に食わないと見える。 確かに此処まで美人ならばそういう気持ちを抱いても仕方ないだろう。 しかし、まだまだ子供。 それこそ自分の子供だと言い張っても良いような年の子だ。 何をそんなに魅了する部分があるのかと赤林は考えた。 容姿だけではなくその頭脳か、それとも別の…何かがあるのか。 赤林はこの子供の魅力が何なのか、ただそれだけが気になった。 気になったからこそ、この子供をもっと知りたいと思う。 それが既にこの子供の魅力にハマっていると気付きながら赤林はまた口を開く。 「…おいちゃん、情報屋さんと仲良くなりたいなぁ。」 「いえ、僕はなりたくないです。」 赤林の善からぬ考えを本能的に察知した折原は素早く返答した。 「えー、おいちゃんね、君みたいな綺麗な子が好きなんだよー。 だから仲良くなろうよ、ね?」 「結構です。」 「そんな事言わずに、ねえ?」 さらり、断り続ける折原の髪に触れ女を口説くような素振りを見せ始めた赤林にこれは本格的に不味いと思いだした折原は正面のソファに座る四木へと助けを求めるため視線を移した。 が、そのソファに居るはずの四木は居らず、一体どこへ、と思った瞬間、襟首を掴まれて赤林から逃れるようにと持ち上げられた。 「っ四木さぁん!」 ソファの後ろへと下ろされた折原はそのまま四木の背後へと隠れ、助けてくれた事に安堵したのか甘えた声を出しながら四木の腰へとしがみ付いた。 「赤林さん、からかうのは止してあげて下さいよ。まだ子供だ。」 しがみ付く折原をそのままに四木は胸ポケットから煙草とライターを取り出しながら言う。 その姿に赤林は思わず目を見開いた。 「こりゃあ…四木の旦那…」 『アンタ、本気なのかい?』そういう意味を含んだ目で赤林が四木を見れば四木は煙草を銜えて笑った。 その笑みは『そうだとしたら?』という意味を含んでいた。 長い間、同じ組に属していた二人だからこそ分かりあう事であり、まだ付き合いの浅い折原はこの二人の真の会話に気付くことは無く、ただ首を傾げるままだった。 「なんか…感じ悪い、二人とも…。 …今日は帰りますね、四木さん。 何かあれば、ご連絡を。」 「またね〜情報屋さん。」 「折原さん、お気をつけて。」 四木の腰から身体を離した折原は不機嫌を隠す素振りもなくそのまま二人に背を向けて部屋から出て行った。 最後に二人が折原にかけた声はまるで聞こえなかったというように。 その後、四木と赤林が残された部屋では『綺麗な花には棘があるって言うしねえ…口説くのが楽しみだねえ。』とほくそ笑む赤林の頭に拳を振り落とす四木が見られた。 *** 四木臨においちゃんがちょっかい かけ出したよ!第一弾!(え 急に赤臨ブームが来てしまった結果です。 多分続きます。 次は粟楠組の会話なんだぜ! |