劣情と誘惑



劣情と誘惑 提出
*赤林+四木×臨也
*今更クリスマス話


***


すっかり日が暮れるのが早くなった冬の夕暮れ時。
クリスマスの飾りで彩られた街はいつも以上に浮き足立っているように見えた。
そんな中、コートのフードを深く被った臨也は仇敵である静雄に見つからぬよう人気の多い大通りや全く人気のない路地裏を猫のように徘徊していた。


薄暗い路地裏を携帯片手にゆっくり、這うように歩いていた臨也はふと前方に感じた人の気配に足を止めて反射的に顔を上げ、静雄かと警戒しながら伺った。
だがそこに立っていたのは今この場所に現れる筈のない取引先の男で臨也はただ目を見開くしかなかった。

「こんばんは、折原さん。」
「こんばんは…四木さん。どうかしましたか、」
「にゃんこが寂しいって徘徊しているみたいだから、ね。」

こんなところで。そう続くはずだった言葉は表の仕事時の笑顔を浮かべる四木の後ろに立っていた赤林によって遮られた。
どうやって己の現在地を知ったのか、そう疑問に思った臨也は訝むようにして二人を見つめていたが数秒して四木が路地裏の先へと女性をエスコートするように腕を伸ばした。
そして四木の後ろでニヤニヤといやらしく笑みを浮かべていた赤林が臨也の隣に歩み寄って臨也の背に腕を回すと前へと進むように促した。

「えっと…四木さん、赤林さん…?」
「折原さん、この後もどうせお暇でしょう…?宜しければ一緒に来ませんか。」
「おいちゃんと四木の旦那で素敵なクリスマスにしてあげるよぉ?」

四木が仕事用の笑顔ではなくプラベート、特に何か臨也にとって良くないことを考えているときに浮かべる意地の悪い笑顔へと変え、隣に立つ赤林がふにゃりと、だらしなく笑いながら放った言葉に臨也の背には得体の知れない何かが、駆け巡った。


赤林に促されるままに路地裏を抜けた先の通りにはいつも四木が運転する黒塗りの車が一台、止められていた。
後部座席の扉を開けた赤林はそのまま臨也を車内へと押しこんで座らせると自らもその隣に座り込んだ。
四木は前方へと周り運転席の扉を開き乗り込んだがその姿に臨也が目を見開き驚く。

「え、四木さんが運転、するんですか?」
「…何かご不満でも。」
「い、いえ…」
「四木さんの運転、結構荒っぽいもんねぇ、怖いよねぇ…臨くん。」
「こ、怖いってわけじゃありません!」
「別に荒っぽくないです。青崎さんとかが図体の割に丁寧なだけですよ。」
「ああ…それは確かにねぇ…。」
「え、そうなんですか?意外…。」
「とりあえず、赤林さんは臨也の足を撫でる手を止めましょうか。」
「えー…。」
「…あ、四木さん、えっと、めりーく、もがっ」
「臨くん、まだ早いよ、そのセリフは。」

車に乗ってから臨也の足を撫でていた赤林は四木に注意されると渋々その手を離し、臨也が言いかけた言葉をその手で押さえて止めた。
無理やり止められた臨也は赤林を不審に見つめるも「まだ早い」と言う言葉に僅かながら真意を見抜き了承したという印に小さく頷いてやっと口を開放されたのだった。



「何ですかこれ…。」
「クリスマスパーティーですよ。」
「ケーキと鍋って組み合わせについては文句言っちゃダメだよぉ。」
「…鍋…何鍋ですか?」
「蟹鍋だな。」
「…売れ残りですか?」
「…ち、違うよ?おいちゃんが頑張ってこの日のために選んだ蟹だよ!」
「はぁ…この日のため、ですか…。」
「とりあえず、座ってください。」

白いフローリングの上に柔らかな毛の黒い絨毯がひかれ、そこにはガラス張りのローテーブルと黒革のソファがあった。
いつもそのローテーブルに置かれてあるのはガラス製や黒曜石で出来た灰皿だったが、今日ばかりは四角い白の箱、ちょうどケーキが入るのであろうサイズの箱と用意の途中なのかガスコンロと土鍋が置かれている。
そして四木が促すままに臨也は黒革のソファに腰掛け、この状況を分析しようと思考を巡らしたのだが臨也の両脇へ座った四木と赤林によってそれは阻止された。


「さあ、楽しい夜にしましょうか、メリー・クリスマス?臨也。」
「メリー・クリスマス?臨くん。」
「…メリー・クリスマス、四木さん…赤林さん…。」
怪しげな笑みを浮かべる四木が臨也の肩へと手を置き言えば鍋の用意へと取り掛かっていた赤林も目を細めながら笑って同じように続ける。
その言葉と笑みに背筋に期待と不安を感じながら微笑み返したのだった。


劣情と誘惑が交差する夜。




***
クリスマスネタを企画に上げるという暴挙。
主催者が遅くなって申し訳ないです。



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