彼はまるで世の中全てを知っているとでも言うかのような口ぶりばかりだった。
彼のその神様きどりの様は見ている者にとってはとても不可解であり不快であり、そして、どこか神秘的にも見えたのかもしれない。


矛盾の神様



喧騒とする池袋の街。
いつものように殺し合いの鬼ごっこを終えた臨也は冬だというのに汗をかいていた。
そんな臨也に捕まった俺はワゴンに背を凭れ、薄く笑みを浮かべながら紡がれる言葉を聞いていた。
臨也の言葉は魔であり、聖である。
きっと聞く者によっては彼を人でなしの外道と罵り、聖人であり救世主だと褒め称えるのであろう。


「愛というのは実に不確かなものだ。
ドタチンもそう思わないかい?」
「…それは、お前の人間愛を否定してるのか?臨也。」
「違うよ、そうじゃない。
俺の愛は明確なものだ。
だけど彼ら…人間の愛というのは酷く不確かじゃないか。
愛し合っているのに浮気したり、他の人間へと目移りしたり、さ。」
「お前の愛は違うのか?」
「俺の愛は人間には平等だよ。」
「…皆、愛していると?」
「そう。…ただひとつ、例外を除いてはね。」
「…。」
「あの男だけは一生かけても愛せそうにないよ。」
「…そうか。」

「(皆愛しているということは、皆愛していないのと同義で、結局お前の愛は不確かなものだと俺は思うんだがな。)」

「ねぇ、ドタチン。
もしも今後、俺の人間に対する愛の価値観が…変わるその日が来たなら、君はどうする?」
「どうするも、今までと変わりはしないだろう。」
「ふふ…だから俺はそんな風に言ってくれる君が好きだよ。」

もしも、と話しながら笑う黒を纏った神きどりの同級生は今まで見たなかでも一番人間らしい顔をしていた。
きっとこんな話をしたのは彼のある種、予言めいた話でも何でもなく、自らの変化に気づいていたからこそのものだったのだろう。

いつものように不敵に笑みを浮かべる姿は世の中の全てを観てきたというようなどす黒く淀んだようでもあり、世の中の汚いものなど一切知りませんとでも言うような白く透明なようでもあった。
彼のその身が持つ色は黒か白かであり、灰色なんていう色を見せることはなかった。
はっきりと引かれた境界線が確かにあったのだ。
なのに今、彼のその境界線は酷く曖昧で、滲み出していた。

ああ、きっと彼はもうすぐ神様であるかのようなその傲りを失うのだろう。


矛盾の神様、その綻びはきっと、お前が愛し嫌った人間特有のものだよ。


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