愛月撤灯



※連載閑話※
※相互御礼※
Cocksbomb】の白川さまへ

***

「しかし…まるで犬のようですよねえ。」

その言葉を紡いだ男に何しに来たと声を荒げて追い出してもよかったのだが如何せん、臨也が寝ていたので起こしてしまっては不味いとこの男を部屋に入れてしまった事自体がそもそもの間違いだったのだと四木は今更になって後悔していた。
この男―――赤林がやって来たのは少し前にソファに並んで座りテレビを眺めていたのだがいつの間にか臨也は四木の肩へともたれ掛り眠り始め、その際四木は起こさぬようにと不安定な肩の上でなく己の膝の上へと寝転がそうとした、その時だった。


部屋の中に来客を知らせるあの特有の音が鳴り響き、ソファに座ったままインターホンの画面に映るのは間違いなく同僚の赤林であった。
その際に居留守をかませば良かったものの画面に映る赤林は更に呼び鈴を鳴らそうと手を伸ばしていた。
たとえその音がさほど大きくはなくとも寝入り端に何度も鳴れば流石に臨也が起きてしまう。
返事だけをして帰ってもらおうと身近にあったクッションを手に取るともたれ掛って来ていた臨也の頭の下へと引いてその場から離れた。

「家にまで来ていったい何の用です。」
『居るなら早く中へ入れて下さいよ四木の旦那。』
「用件は。」
『お宅に情報屋さん、囲ってあるんでしょう?』
「…情報屋?何のことです、一体。」
『おや、白を切りますか。』
「"情報屋"は居ませんよ、うちにはね。」
『ああ…そうでしたね。
まぁ、取りあえずお宅にいる子の様子を見に、ね…来たわけですよ。』
「お引き取りを。」
『せっかくお土産も持って来たんですし、お茶ぐらい良いでしょう。』
「…土産?」
『池袋でちょっと流行りのプリンですよー。』
「アンタ…それ、自分で買いに行ったのか。」
『ええ、ここへ来る前に。喜ぶでしょう?お子さん。』

家の中へ入れろと言う赤林が用があるのはどうやら情報屋の折原臨也であり、此処にいるのは情報屋ではない折原臨也であったし、臨也が居ることをいったい何処で聞いたのかと問いただそうかとも思ったがそれを聞けば自白するようなものだったから白を切った。
それでも引かない赤林と家の中へと入れたくない四木とで画面越しに繰り返される押し問答に四木は面倒になりいっそ警察でも呼んでしまうかと思ったが不穏な気配を読み取ったのか赤林は手に持っていた紙袋をカメラへと向けて言った。
しかもその紙袋の中身はプリンだというではないか。
子供でも、ましてやそんなに甘いものが好きではないのにそんなもので釣られてどうする、と四木は思ったが『池袋で流行りの』という言葉にテレビを見ていた臨也が『美味しいそう。』と言っていた事を思い出す。

「つい最近、テレビで?」
『そうそう。俺もそれ見てね〜食べたくなっちゃったんだよ。』

どうやら臨也が食べたいと言った物で間違いはなさそうである。
非常に家の中へと赤林を入れるのは気が進まないが土産として持って来られたものが丁度臨也の食べたい物だったのだから仕方がない。

「それ、置いたら帰ってくださいね。」
『そんな連れない事言わないでよ、四木の旦那ー。』

言ってロックを解除してやれば楽しげに声をあげた赤林に既に後悔する四木だった。


部屋へと赤林が来るまでの間に四木は先ほどまで座っていたソファへと戻り眠っている臨也の寝顔を眺めた。
そしてそっと臨也の頭を抱えクッションを退けてからソファへ座り自らの膝へと臨也を寝かせた。

そうこうしている間に赤林が家の中へとやってくるとソファに座り臨也に膝枕をしている四木に驚き眼を見開かせた。

「四木の旦那が膝枕…。」
「悪いですか。」
「い、いや…なんというか…アンタも人の子だったんだねぇ…。」
「…それは…どういう意味です。」
「いや、こう甘い雰囲気を出されちゃうと、ねぇ…?」
「もう一度言いますよ、赤林さん。悪いか。」
「悪いとは言っちゃいませんよ。
しっかし…四木の旦那が膝枕…写メ撮って良いですか。」
「ダメに決まってるでしょう。」

そのまま携帯を取り出そうとした赤林に向かってクッションを投げつけてやれば受け止めた赤林はそのまま床へそれを置きその上へと座り込んだ。

「(…あれは捨てよう。)」
「あ、いまこのクッション捨てようとか思ったでしょ、四木の旦那。」
「何の事だか。」
そうやって惚ければ軽く笑う赤林に対して気を悪くしたわけではないと分かる。
こんな冗談、よくあることなのだ。


***


「しかし…まるで犬のようですよねえ。」
「…何がです?」
「いやね、その子供がですよ。」
「…コレ、が犬ですか?まさか。」
「主人以外には尻尾を振らない。十分犬みたいじゃないですか。」
暫く、他愛もない世間話のように組についてや周りの状況を話題に喋っていたのだが唐突に赤林が『犬のようだ』と未だに眠る臨也を称した。
その言葉の意味がいまいち理解出来なかったのと臨也が犬というのは何処か的外れな気がして自然と笑えて来てしまった。

「…これは犬なんて従順なものじゃないですよ。
私にだって爪を立てる事がある。」
「へぇ…?」
「犬と言うよりも…気まぐれなネコですね。」

すり寄って来たかと思えば離れる、そんな気まぐれさを持ってるくせに此方が見向きもしなければ寂しがる。
臨也はそんな愛玩するには不向きのネコだった。
だが、その気まぐれな部分が愛らしく思ってるのも四木にとって事実であった。

「…ネコ…ですか。
まあ確かに"寝子"ですね…その様子じゃ。
それに"知らない"人間には警戒心が強いようだ。」

赤林が少し思案し、納得したかと思えば膝の上にあった臨也の頭が少し動いた。
それに気付いた四木は臨也へと視線をやればまだ少し眠いのか、急に眼を開いたせいで部屋の明かりが眩しかったのか何度も瞬きをしていた。

「…起きたのか。」
「ん…四木さん、この人だぁれ?」
「四木の旦那の同僚だよ。」
「…アンタには聞いてないんだけど…。
仕事仲間なの、四木さん。」
「ああ。赤林だ。
…臨也、この男に近付いたら食われるから気をつけろ。」
「え、た、食べちゃうの?」
寝起きの臨也に声を掛けながらゆるりと頭を撫でてやれば眠そうにそのまま四木の膝に頭を乗せたまま赤林を見て不審がり誰かと四木に問えばそれよりも早く赤林が答えた。
その返答に臨也は顔を顰ませると四木へと顔を向けてもう一度尋ねた。
その問いにクククと喉を鳴らして笑う四木の言葉に怯えて臨也は赤林を見た。

「…いやいや、食べやしねぇさ。
まったく…四木の旦那もお人が悪い。」
「突然やって来た不躾な男に遠慮なんぞ要らないだろう。」
「…ね、ほんとに、俺の事食べない…?」
未だに四木の言葉に怯えて四木の腰へと腕を回ししがみ付きながら赤林を伺い見る臨也は幼い子供のようだった。

「ああ、食べないよ。
…そうだ、これをやろうか。」
そんな臨也の様子に笑みを浮かべた赤林はスーツのポケットから包装された赤い色をした飴玉を一つ取り出した。

「…?なに…?」
「餌漬けしないでくださいよ、赤林さん。」
「子供は食べ物で釣るに限るでしょうよ。」

赤林が立ちあがってソファまで来るときょとりと見上げる臨也の四木の腰へと回されていた手をとるとその上に飴玉を置いた。
それを四木が軽く咎めたが赤林は気にすることなく笑うばかりだった。
軽く咎めた四木だって臨也の手に乗った飴玉を奪う事は無かった。

結局、大人は皆、子供を甘やかすのだ。
それがたとえどういう関係の子供であろうとも。

そうして部屋にはケタケタと笑う赤林の声が響いたのだった。



***
リクエストの『四木臨でちょっかいを掛ける赤林』…こ、こんな感じでよろしかったでしょうか…?
というか勝手に連載設定にしてしまい申し訳ないです;;
返品可能ですのでお気に召さなかった際はお気軽にお申し付けください!
相互リンクありがとうございました!!

この作品は白川様のみお持ち帰り可能です。


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