何が太陽の国イタリアだ
ルパンのろくでもない女好きに付き合わされて来てみれば、毎日毎日雨ばかり
しかも、暗殺部隊に狙われているというデカいマフィアのボスから娘を守ってくれと用心棒を頼まれる始末
思った以上の大金が舞い込むことに、仕方なく依頼を受けることにした
「次元大介さん」
「フルネームで呼ぶの、いい加減やめろ気持ち悪ぃ」
「じゃあ大介さん」
「下の名前かよ、まぁいいか」
俺が守ってやらなきゃいけないこの女は、二十代前半の日本人
あまり詳しく彼女の情報は聞いていない
聞く気も知る気もさらさら無いのだがこの一ヶ月半の間で、どうにもこの掴み所のない感じが俺は苦手だということと、マフィアボスの娘なくせに一般人のように粗末な部屋で一人暮らしをしているということは分かった
「ご飯食べに行きましょうか」
「お前、狙われてるってこともう少し自覚したらどうだ」
「狙われてはいても殺されはしないですよ。捕まってもお父様への脅しに使われるくらいのものです」
「そうかねぇ」
彼女は気にもしていないような表情で淡々と口にしながら、俺の手を引いて玄関まで来ると、お気に入りらしい黒のヒールを履いてカツンと音を鳴らした
「慣れてる、とでも言いた気な口調だな」
「確かに、慣れてます。脅しのために誘拐されること早二十年ですから。何回さらわれたか覚えてないです」
「そうか」
どこか影があるとは思っていたが、そういうことかとようやく気がついた
自分の置かれている現実を受け止め過ぎて、どうにかする気すら起きないといった風に見えた
彼女は玄関のドアノブに手を掛け俺に背を向けたまま、またポツリと話し始めた
「慣れてますけど、怖くないと言ったら嘘になります」
「怖いか?」
「そりゃ、怖いです。死ぬんじゃないかっていうくらい信じられない拷問とか沢山されますから。痛いし…怖いです」
「この、跡もそうか?」
チラッと服の袖から見えた彼女の手首には、拷問で縄やテープを巻かれ何度も拘束されたおかげで色素が沈着したような跡があった
それをなるべく優しく触ってみると、彼女はフッと悲しげに笑った
「嫁入り前にこんな傷だらけじゃ貰い手無くなっちゃいますよね」
「何言ってんだ」
「もうこの話止めにしましょう」
彼女は静かにドアを開けた
俺もそれに続いて外に出る
相変わらず空は泣いてばかりだ
「傘、一本しかないですけど」
「相合い傘は嫌か?」
冗談めかして聞いたら、彼女は返事の代わりに俺の腕に自分の腕を廻してきた
この時、何故か俺は、この若さで人生を悟ってしまったような彼女を一生守ってやりたいと思っていた
「怖くなんかねぇさ」
「え?」
「俺がついててやる、いつまででも」
最初のキスは
濡れた頬に