「ねぇ、理沙さん」



どうしたものかと、ふと思った
アルバイトが休みの日、俺のイカれた仕事を手伝ってくれる彼女は、只今情報整理を黙々と、くわえ煙草のまま行っている最中だ
俺が、この俺が呼び掛けているというのに、目の前のパソコンから目を離す気配が全く無い



「理沙さんてば」

「なに?」



何故何度もしつこく呼び掛けているのかというと、先程からこの人は嫌がらせかと思うほど俺の方に煙草の煙を吐いてくる


「あのさ、煙が目に沁みるんだよね」

「あ、ごめん」



まぁ悪気がないのは分かっている
彼女は、一つのことに集中し始めるともう一つに手が廻らなくなるタイプだ
その証拠に、口では謝罪の言葉を述べたものの、視線は眼前のパソコンに向けられたまま、右手でキーボードを打つかマウスを弄り、左手でもうすぐ落ちそうになる煙草の灰を何となく感覚で灰皿に打ち付けてまた口に戻す、をただ繰り返しているだけである

煙は一向に、俺以外に向けて吐かれることはない

ガタン、と少し大きめに音を立てて椅子から立ち上がってみても、理沙さんの意識はパソコンに向けられたまま
パソコンより俺にあの熱視線を送ってくれないだろうか



「理沙さん」

「どうしたの」



立ち上がって、座ったままの彼女の真横に立つとようやく俺に視線を向けた
瞬間、彼女の口から煙草を奪い取ってやった



「ちょっと臨也」

「黙って」





灰になるまで唇寄せて




苦いキス



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