「臨也」
彼女はいつも
俺の心の中にいる
「理沙さん、どうしたの?」
「待ってたんだよ」
単調な雨音と喧騒が響く新宿駅前
池袋で一仕事終えてタクシーから降りたところで、偶然か必然かはたまた計算か、愛しい人物に声を掛けられた
「仕事終わり?」
「ん、今戻ってきたとこだよ」
年上の彼女との間には越えられない壁があるような気がして、自分でもゾッとするほどのこの純粋な気持ちは昔も今も、ずっと心に秘めている
それを彼女は知っていて面白がっているのか、俺を好いてくれているのか
真相はよく知らない、というか俺が知ろうとしていないだけだったりする
「私ん家寄ってかない?」
彼女は俺をどう思っているのだろうか
どう思ってそんな台詞を吐いているのだろうか
本意を知ってしまってはつまらない、なんて内心強がってはみるものの、自分も他の馬鹿な人間共と同じようにこんな青臭くてその上消極的な苦味を味わう羽目になろうとは思いもよらなかった
まぁ、断る理由もない
好きだから
「どうぞ、上がって」
「お邪魔しまーす」
誘われるがまま煙草の匂いのする部屋に上がり込んで、前を行く彼女の背中を見ていたら、どうしようもなくなってきた
本当に突然だった
「理沙さん」
「なぁに?」
どうにでもなれ、という思いとは少し違う
知っていてくれるだけで良かった
聞いて欲しかった
彼女の男になれなくてもかまわなかった
「俺は理沙さんが好きです」
「…臨也」
「いいんだ、ただ言っておきたかっただけ」
これだけでいいんだ
この透明な身体には貴方を想う心臓一つ在れば良い