泣かせるつもりじゃなかった



「ねぇ、理沙さん」



些細なことで喧嘩した
とは言っても、100%俺の八つ当たりなのだが

いつものように俺の部屋で仕事を手伝ってくれていた理沙さん
どうにも上手いこと片付かない書類整理で苛立っていた俺は、彼女の何気ない呼びかけに不機嫌全開の返事をしてしまった
そこから俺はいつもの饒舌っぷりでさぞかし腹立たしいであろう言葉をまくし立てた
その間、彼女はずっと黙って俺を見つめていたがしばらくして俯いてしまった

それから15分ほど経っただろうか
今、彼女は静かに泣き出してしまったところだ



「ごめん、ホント」



とても深く愛しているのに、なぜあんな態度をとってしまったのか
所詮は俺も、ただのどうしようもない一人の男なのだと痛感させられた



「理沙さん、もう泣かないでよ」



こんな時どうすればいいのか、正直全くわからない
今まで、二人一緒にいてこんな状況は一度もなかった
彼女に悪いところなど何一つないのに、俺を責めるようなことを一切言わないのが更に罪悪感だ

椅子に腰掛け俯いている彼女の傍に寄って、顔の高さまで屈んでみた



「理沙さん」



これからどうなっていくのか、彼女にどう思われるのか、不安で仕方がない
柄にもなく焦っているのが自分でも分かるほど、心臓が早く動いていた

綺麗に揃えられた彼女の膝の上に手を置いた時、ふと彼女が俯いていた顔を上げ俺を見た
散々冷たい言葉を吐かれたというのに困ったように微笑んでいた



「っ…泣くつもりなかったんだけど…早口で何言ってるか分かんなかったしっ…でも…ごめん」

「なんで理沙さんが謝るの」

「泣いたら…面倒臭いでしょ」



そう言って彼女は、屈んでいた俺になだれ込むように抱き着いてきた
俺もそれを受け止めて、そのまま床に倒れ込む形で抱き合った



「臨也もまだまだ子供だね」

「ん…そうだね」



何事もなかったように接してくれる彼女に、俺はもう一度「ごめん」と言って、擦り寄ってくる頭を撫でた



「俺には理沙さんだけだよ」




道化とは名ばかり




男って


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