ある大学の映画研究同好会の部室に、彼は住んでいた



「リサさん、今から昼寝します。一時間後くらいに起こして下さい」

「一時間でいいの?」

「はい」



一度彼に依頼を受けてもらって以来、私はほぼ毎日のようにこの場所を訪れては時間を共にするようになってしまった
始めは私の持ってくる差し入れ目当てのようだった彼も、今では私を姉のような存在くらいには思ってくれているのではないだろうか
自惚れながら、寝入ってしまった彼に毛布をかけてやって自分は傍にあった心霊本でも読むことにした

所謂自由人である私は、仕事がなければ特にすることがない
友達もなければ趣味もない
強いて言えば、音楽鑑賞くらいなものだろうか
だからこうして何をするわけでなくてもここに来る、ということが自分の日常に加わって、これでも結構楽しかったりする



「あ、そうだ。これ返さないと」



先日、彼の仕事(?)の手伝いをした際、寒い中外で待たされることになってしまった私に彼がその時着ていたコートを貸してくれた
コートはこれ一枚しか持っていないと言っていたので待たせたら申し訳ないと思い、クリーニングもせずそのまま持ってきたのだ



「本気でこれしか持ってないとか…変わってるよねー八雲」



独り言を呟いて、毛布の上から彼にコートを掛けてやろうと近付いた
瞬間、彼は起きたのかまだ眠っていなかったのかゆっくり顔をあげて私を見たので、思いのほか大袈裟に驚いてしまった



「びっくりした…起きてたの?」

「それ…」

「え?」



彼は驚いた私を余所に、眠いのかいつも以上にのんびりした口調で私の持っているコートを指差すと、赤い方の目だけ開けて瞬きを二、三回してから小さく欠伸をした



「リサさんにあげます…似合ってたから」

「あげますって、これしかないんでしょう?」

「新しいの買って下さい」

「たかる気?」

「はい…あ、いえ」

「こら」



冗談のような会話をしていたら、彼は完全に目を覚ましてしまったようで、椅子から立ち上がり私の手からコートを取り上げるとふわっと肩に掛けてくれた



「黒が似合う」

「私?」

「黒は女を美しくする」

「何言ってんの」

「本当ですよ」



そう言って彼はクルリと向きを変え、また椅子に座り直した
眠る気はもうないらしく、缶のお茶に口をつけてから、目でトランプをしようと訴えられた



「ぼくに似合うやつ買って下さい」

「トランプで勝ったらね」

「ぼくが負けるわけないのに」

「ふふっ」

「あぁ…」



私の言葉の意味を理解した彼は、少し目を細めて笑った

居心地が良いと、彼も思ってくれていたらいいなと願いながら
私は勝つつもりのないゲームを始めた






きっと多分恐らく大方愛してると思う





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -