「ねぇ、八雲」
上着を着ないと寒い割りに、無駄に天気の良い日だった
久々に受けた悩み相談(後藤さん絡みではない)というかもう既に事件の域に達している依頼について色々調べ回っている途中、寄った図書館から出ようとした際、隣にいたリサさんに何気なく声を掛けられた
その声が、少しいつもと違う気がして一抹の不安を覚えた
「人間てさ…生まれた瞬間から死ぬ瞬間に向かって生きてるんだよね」
「なに、どうしたんですかいきなり」
彼女が突拍子もないことを言うのはいつものことだったが、傍にうろついている魂もないことから、やはり今の彼女も"彼女"なんだろう
言うだけ言って彼女はぼくの前を歩き出した
その背中を見ながら黙ってついて行くぼくは、どんな顔をしているか、自分でもよく分からなかった
「私も、八雲も、そうなんだよね」
「人間、ですからね」
「…あのね」
「はい」
彼女は振り返ってぼくを見た
その目が潤んでいるように見えて、ぼくは思わず少し前に出る
声も、彼女自身も、今にも消え入りそうだった
しかし、一抹の不安は次の彼女の言葉で拭い去られることになる
「私ね、これから…死ぬ寸前まで、八雲と一緒にいたい」
「リサさん…」
「八雲に出会って死ぬ瞬間を二人で迎えるために、私は生まれたんだって思ってるの」
そう言った彼女の潤んでいた目から、押さえきれなかった水分が零れ落ちた
抱きしめた彼女は、出会ってから今までずっと一緒にいたのに、ようやく触れることが出来たような気がした
「ぼくも、そう思ってますよ」
図書館で何をしていたのだったか一瞬忘れてしまうほど
差し出した手の平に彼女の体温が心地好かった
手を繋いで
死に場所さがし