『え?また行くの?』
ねぇちゃんを村に保護してから数日が経ったある日
あの開かずの修道院で行動を共にしていた先輩のリサさんが、新たな冥使の噂を聞き付けて、またしばらく村を離れることになった
次期大老師である僕にすら、既に決定事項として彼女自身から告げられた
『この前みたいに軽ーい感じで行ってくるだけだから、いいでしょ?』
『まぁ、リサさんなら心配ないとは思うけど…』
どうしてだろうと思った
僕以上に頼りになるリサさんなのに、なぜだか今回は妙な胸騒ぎが治まらない
良くないことが起こる、そんな感覚が体中を廻っていた
そんな僕を余所に、静かに微笑んだまま見つめてくるリサさんを、僕は引き止めることが出来なかった
心の中に彼女しかいないと気付いたのは、このもっとずっと後だった
『え、行っちゃダメ?』
『なんで?』
『なんかホントはダメって言いたそうな顔してる』
『そんなことないよ』
『私が死んじゃったらどうしよーとか思ってる?』
『そりゃ心配はするでしょ』
もしも、リサさんとこのまま二度と会えなくなったら…と想像してみたら僕は、彼女無しじゃ一日も生きられない気がした
リサさんは先輩だけど、年上な感じがしない
僕の肩書も気にせず自然に接してくれる友達のようでいて家族のようでもあって
姉のような恋人ような、とにかく僕にとってこの世で一番大切な存在だ
そんな彼女がいなくなったらと思うだけで、ゾッとした
「すぐ帰ってくるから、待ってて」
この時、なぜ止めなかったのだろう
胸騒ぎが起きていることをどうして伝えなかったのだろう
次期大老師と言われているとはいえ、僕も所詮ただの子供だった
彼女が行きたいと言うのなら行かせてあげて、何でもいいから喜ぶ顔が見たいと
それだけだったのだろうか
後悔しても、今更遅い
目の前の赤い目をした彼女に銀の銃口を向けたまま、僕は静かに涙した
「さよなら、リサさん」
君を殺めた悪夢の中
せめて悪夢であれば良かったのに