「おい、理沙」



この女がここに現れて幾月経っただろうか
一年は経っているか
私は、この女がこのように、物思いに耽るような様を目にしたのは何度目だろうか
数える程しかないと思う

女は、今は亡き秀吉様から私がお預かりしている城の天守で
恐ろしい程近くにある月を、眺めるに調度良い気に入りらしい隅っこに座り込み、化粧をしてもしなくても代わり映えのしないいつもの顔で、何やら口から煙を吐き出していた



「何をしている」

「三成さんか」

「何だ?私では不満か」

「いいえ、とんでもない」



むしろ三成さんで良かった、と
女は力無く笑って私を見ると、また口元に白い細長いものを運んでは煙を吐き出していた

煙とともに女が消えてしまうのではないかと、(刑部曰く)不安を感じ、私は静かに寄って女の隣に腰を下ろした



「ここは秀吉様の部屋だ」

「わかってる」

「せめて私の許可を得てからにしろ」

「三成さんじゃ許可得られるか不安です」

「減らず口を」

「まぁそう怒らないで下さいな」

「怒っているわけではない」

「そうなの?」

「あぁ」



泣いているような笑っているような、こんな儚い表情ができるのかと
普段の飄々とした様子からは図り知れない程、ひどく美しく愛らしい

突然現れたこの、いつ消えるやも知れない先の世から来た人物は、私にとってすでに欠かすことは出来ない存在にまで膨れ上がっていることを、こやつ自体は全く予知すら出来ていないだろう



「それはなんだ」

「これ?煙草」

「たばこ?」

「そういえば持ってきてたなぁって思い出して」

「何か味でもするのか?」

「しない、体に良いものでもない」

「ならやめておけ」

「ふふ、なんで?」



短くなったそれを、手に持った小さな入れ物に押し込むと、南蛮語らしき文字の入った箱からまた一つ取り出して、傍にあった蝋燭の火に近付けた
そんな一連の動きすら美しいと思ってしまう私は、何かに憑かれているのだろうか



「何を考えている」

「んー、いや、ただ…」

「ただ?」

「私は…一体いつまでここにいるのかなって」

「…」

「出来れば、ここに…ずっといたいなぁって」



言って、女は私を見た
長く、いや刹那だったと、思う
見つめ合った
そのまま、手を伸ばして抱きしめてやった

あぶないよ、と
女は白いそれを私に触れないように高く持ち上げ、片方の腕を私の背に回した


「いればいい、いたいだけ」

「わお、三成さんからその言葉を聞けるとは」

「茶化すな」

「はい、ごめんね」

「理沙」

「ありがとう」



私が抱きしめたというのに、女は私の背をあやすように優しく叩いた

何故私が慰められるようなことに、と若干不満にも思ったが、良い気持ちだったので口にしないでやった



「私は理沙を好いている」

「三成さんも冗談言うんだね」

「だから茶化すなとっ」

「ふふ、ごめんなさい」

「まったく」

「私も好きだよ」





これはもうやめておけ、と
女の手からたばことやらを取り上げた






息を奪わぬようにと触れるだけの口づけを





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