蝉が煩い
「暑い」
「三成さんでもそんなこと言うんですね」
急く必要のない武田宛の文をちょうど認め終わる頃
ふと、口にした私の言葉に理沙は意外だとでも言いた気な返事をした
暑いものは暑い、誰だってそうだ
理沙がなぜ"そんなこと"と言うのか、私にはいまいち分からないが
聞けば、理沙は夏があまり好きではないと言う
理由は、汗をかくから
くだらん
人間であるのだから汗ぐらいかくのは当たり前だ
それを嫌がってどうする
そう言ったら、汗かかない三成さんはいいですよねと何故か不機嫌に返された
「おい 理沙」
「何ですか」
「扇げ」
「はいはい」
理沙の扇ぐ風が心地いい
久しぶりに執務がない夏の午後
予想外の眠気が襲ってきて、向かっていた机に突っ伏しそうになっていたら、後ろで理沙が動いた気配がした
「三成さん」
「…?」
「ひざ お貸しします?」
まただ
すぐそういったことを…
理沙は刑部曰く"天然"なのだそうだ
男だとか女だとか人だとか犬だとか、そういうことを全く気にする素振りもなく、"男"である私に"女"である理沙は、普通の感覚では多少羞恥があっても良いようなことを平然と言ってのける
異性として意識をするということは無いのだろうか
まぁ、私が言うのもなんだが…
流石に私でも、ある程度常識と羞恥心はある、つもりだ
「いや いい」
「そうですか」
この糞暑いというのに人の体温を間近で感じるなど、不快以外の何物でもないだろうが
と、断ったはいいものの、刑部やら官兵衛やらにまで同様のことを口にしているかもと思うと、無性に腹立たしかった、ので、
理沙、と静かに名前を呼んで、傍に寄ったこやつの膝に徐に自身の頭を乗せてやった
「いいんじゃなかったんですか?」
「気が変わった」
「嫌だねぇ、気まぐれ」
「やかましい」
刑部のようにクツクツ笑いながら私を見下ろす理沙に一睨みしてから、私は目を閉じて眠りに落ちる準備をした
「三成さんは夏好きなんですか?」
「好きでも嫌いでもない興味がない」
「ですよね」
「ふん…」
「じゃあ冬も?」
「…」
頭の位置を変えようと体を動かしながら、理沙の質問を暫く考えた
理沙の腹部を目の前にして再び目を閉じると、あれ?無視?と理沙は笑っていた
冬は嫌いだ、貴様が恋しくて死にたくなる
じゃあ毎日お部屋に来てあげますね
そういう意味では…