一週間ほど使徒による攻撃がなかったある日
特に用もなかったが、僕はネルフへ足を運んでいた

休憩ブースに行くと、パソコンを膝に乗せベンチに座っているリサさんが、ミルクティーのペットボトルを片手に煙草を吸っていた



「リサさん」



猫背気味の彼女の背中に声をかけたが反応が全くなかった
良く見るとイヤホンを耳にしっかりはめている
なるほど、と思いながら近づいて今度は軽く肩を叩いてみた



「わっ、びっくりしたー」

「あ、ご、ごめんなさい」

「いやいや、謝らないで」



彼女の想定外の驚きように僕は思わず謝罪する
それをいつもの笑顔で制するリサさんに、相変わらず可愛らしい顔をしているなぁと見惚れてしまった



「音楽聴いてたんですか?」

「うん、シンジくんは音楽聴いたりする?」

「え、僕?」

「洋楽とか聴く?」

「はい少し…気に入ったのがあれば」



ネルフ内でこうやって、他愛のない会話をするのも出来るのも僕にはリサさんだけだった
今日此処へ足を運んだのも、彼女に会えたらという不純な理由からだ



「これ聴いてみる?私のお気に入り」



明日も会話がしたくて、必要のないものを借りてしまった

家に帰る途中電車の中で、借りたCDを見つめて彼女の笑顔を思い出す
優しい人だ、きっと誰にでも
レイやアスカにも優しい
そんなリサさんが好きだし、もっと仲良くなりたかった



「どこまで馬鹿なんだよ」



家に着いてすぐ、CDを流した
リサさんが良く口にするアメリカのバンドのバラードロックだった
歌詞の内容は全く分からないけど、メロディーがすごく好きだと思った
これはリサさんが好きだからなのか、純粋にこの曲を良いと思ったからなのか、もう良く分からない

リサさんのお気に入りが部屋中に流れるそれだけで、心臓が高鳴っていた




どうかこの感情に美しい名前をつけてください




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