「シンジくん…」



もう、エヴァに乗らない
そう決めて、父さんにもミサトさんにもさよならを言ってきた
最後に、僕を引き取って一緒に暮らしてくれた愛するリサさんのところへ戻った

ミサトさんから聞いたのか、リサさんは寂しげな表情で僕を出迎えてくれた



「ここから出ていくことないのに…」

「いや、エヴァに乗らないならリサさんのところでお世話になるのは図々しいから」



父さんのしたことが、許せなかった
友達を、僕の手で殺させようなんて
あの忌まわしい記憶がまだ頭の中で渦巻いていた

リサさんの匂いのする部屋で、自分の数少ない荷物をまとめる
小さめの旅行鞄一つに全部収まった



「この前は、食事会…できなくてごめんね」

「リサさんのせいじゃないよ」

「うん…でもね」



静かに少なく会話をしながら玄関へ足を運ぶ
僕は鞄を置いて、自分の靴に手を掛けた



「碇司令も招待してたの…シンジくんとお父さんと…みんなと、笑って欲しかったから」



思いがけない言葉に、僕は靴を落としてしまった

背中に彼女の体温を感じる
後ろから抱きしめられて、彼女の優しさに触れて、僕は動けなかった



「行かないで、エヴァに乗らなくたっていい、ここにいて」



エヴァ以外でも、NERV以外でも、僕の居場所はあったんだ
僕の片想いではなかったんだ
今更気付くなんて、どうかしてる



「リサさん…僕、リサさんが好きだよ、本当は行きたくないよ」

「シンジくん…」



父さんのことを許したわけじゃなかった
でも、僕に廻ったリサさんの腕に触れていたら、エヴァに乗らないということはみんなのこと、何よりリサさんのことを守れないということなんだと気付いて、すごく苦しくなった

今度は僕から、彼女を正面で抱きしめた



「エヴァには乗るよ、リサさんを守りたいから」

「でも、シンジくん」

「ミサトさんにはちゃんと自分で話す、心配しなくていいよ」



言いながら、リサさんを抱きしめる腕に少し力を込めた

彼女は僕の頭を撫でてくれていた



「無理はしないで」

「わかってる、無理しちゃったらリサさんに甘える」

「いい考え」




照明は
蛍光灯と朱い西日





ありがとう


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