部屋の黒い暗幕のようなカーテンの隙間から、気持ちの良い風が吹く春の午後
夫の帰宅を待ち侘びながら、彼女は大好きな読書に没頭していた
窓際のほんのり光が射す豪華な装飾の椅子の上がお気に入りで、煙草を片手に分厚い本のページをめくるその姿は何日もそこから動くことはなかった


「そういうことかぁ」


読み終えた本を静かに閉じながら、彼女は間延びした声で呟いた
次の本、と思いながらすぐ傍にある本の山に手を伸ばそうとした時、部屋の扉をノックする音が聞こえた


「はい、開いてます」


答えるように開いた扉の向こうには、長期に渡る抗争を終えたにも関わらず、全くの無傷でそこに立つ彼がいた


「おかえりなさい」

「またずっと閉じ篭ってたのか?」


彼は、彼女に"ただいま"を返さない代わりにめったに見せない笑顔で彼女の黒い髪をくしゃっと撫でた

あぁ、好きだなぁ、と彼女は思った
彼がいれば、彼さえあれば、大好きな本だってこの世から抹殺してもいい
とは思いながらも、結局は彼のいない間を紛らわすためにその本が必要になるので、無くなるのは困るなと調子良く自己完結し、彼女は愛しい彼を感じるために思い切り抱きしめた


その髪に、その睫毛に、その声に、背の高さに心臓が燃え尽きる




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