「今日は全員(使用人以外)一日オフ」と決めた日、時刻はPM9:35
俺は名前も知らないメイドが煎れたブラックコーヒーを飲みながら、誰もいない静まり返った談話室で読書をしていた

そこに控え目なノックの音が響く



「開いてるぞ」

「…あ、ボス」



入ってきたのは幹部の一人
部隊内唯一の女であるリサだった
たまに見る眼鏡姿で本を小脇に俯き加減で、俺が陣取ったソファーの傍まで寄ってきた



「お邪魔でしたか?」

「いや?」



言いながらソファーを半分空けてやると、いそいそと遠慮がちに腰掛けた
「ありがとうございます」と小さく呟いてから持っていた本を開いて読み始める

時折、落ちてきた眼鏡の脇を人差し指の第二間接で押し上げる彼女の仕草が俺は妙に好きだった



「あの」



彼女が突然こちらに振り返り目が合ったので、俺は驚いて持っていたコーヒーカップから中身を少し零してしまった

膝に置いたままにしていた本に染みができる


「大丈夫ですか?」

「急に見るんじゃねぇよ」

「すみません、でもずっと見つめられて気になったので」



思えば確かに、隣に腰掛けてからずっと見ていた気がする
言わずもがな、俺はリサに好意を寄せていた

控え目だけど、どこか凛としていて自分自身を持っている
それでいて賢く、仕事が出来るできた女だった
中身も外身も悪いところなど一つもない、あるとすれば少し痩せすぎなのが心配だというくらいだ



「悪い」

「いえ、ボスに見つめられるの好きですから」



彼女はまた眼鏡を上げて、からかうように言いながらグレーの瞳を細めて優しく微笑んだ
まさかとは思うが、年下の彼女に俺は子供扱いされているのだろうか



「私も見てて良いですか?」

「このやろう」



冗談めかして言ったリサの、細い身体を引っ張ってそのまま抱きしめた



長い睫毛が、頬をくすぐる




好きです、ボス

早く言えよバカ


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