「思ってたよりも順調そうでむかつく」
ムスッとマックのポテトを三本一気に掴んで口に入れるなおピは、私の方を見ながら不機嫌そうにしている。
「なおピも早く彼氏作んなよ!」
「うるさ!マジでむかつく!あーもう早く私にも良い男現れねぇかな歳上の!」
「社会人とヨリ戻せばいいじゃん」
「やだよー!ちゃんとした人と私もちゃんとした恋愛がしたいんだよー!だれかいい人紹介して!」
「私の男一人あげようか」
「やだよそんなの!!なっちの男たちは怖い!」
はしゃぐみんなの会話を半分聞き流しながら、まだかなぁとスマホの画面を確認するも連絡は入っていない。定期的に通知の有無をチェックする私に目敏く気付いたみぃちゃんは「なになに〜研磨〜?」とニヤニヤとした表情を浮かべた。
「今日部活終わったら一緒に帰るの」
「はー?聞いてないんだけど。よく研磨が許したね」
「うん、無理やり取り付けた」
「あぁ、お疲れ様」
部活終わるまで待ってるからと言ってもダメの一点張りだった孤爪くん。そう言われることはわかり切っていたので私も諦めずにお願いお願いとしつこく迫ってみれば、やりとりに面倒くさくなったのか「一人でいるのは禁止」との条件付きでオッケーを貰ったのだ。
「そろそろ終わるんじゃね?」
「うん、多分そろそろ…あっきた!」
ピロっと浮かんだ通知には、『終わった』という絵文字も何もないとても簡素な文章。それに『了解です!』というスタンプを返せばすぐに既読だけついた。「じゃあ学校戻るね〜」と食べ終わったトレーを片すために立ち上がれば、ちょっと待てとみんなに引き止められる。
「うちらも行くしかないっしょ」
「みんなで帰ろ〜」
「えー、私と孤爪くんの邪魔をするの」
「どうせ他のバレー部もいるんでしょ?いいじゃん」
レッツゴー!とワイワイ歩き出して校門前に辿り着けば、ひそかさん!といち早く気付いたリエーフくんがこちらにブンブンと手を振ってくる。
「おつかれ〜」
「研磨さんはまだ中っすよ!」
「リエーフ着替えるの早くね?一人でなにしてんの」
「なんか研磨さんが着替え終わったならひそかさん来るから外で待ってろって」
「はーん」
「一人にさせたくないけど自分が早く行動するのは面倒くさいってワケか」
「?よくわかんねーすけど」
まだかまだかと部室の方を見ているとガチャっと扉が開いて残りの部員たちが出てくる。挨拶をすれば、よーすといつものテンションで出てきた黒尾先輩の後ろに隠れて孤爪くんも確認できた。
「孤爪くんお疲れ様!!」
「おいおい館ちゃーん、俺たちもお疲れなんですけどォ」
「ほんとに来たんだ」
「来るよ!待ってるって言ったじゃん!」
「チョット二人して無視しないでくんない?」
ゾロゾロと歩き出すみんなに続いて私たちもゆっくりと歩き出す。腹減ったーとお疲れな様子のみんなはコンビニに寄ることにしたみたいだ。孤爪くんも例に漏れずお腹が空いたようで大人数でコンビニに入っていく。私たちは先ほどマックでポテトを食べてしまったのでお腹は空いてない。コンビニの外で四人で待っていると、素早く買い物を終えた夜久パイと孤爪くんがアイスをくわえながら出てきた。
「お前らコンビニ前でたむろすんの似合うな」
「似合うってなんすか」
「深夜にドンキの前にもいそうだよな」
「あーね!つかそれはやってる」
「ガラ悪」
孤爪くんはパピコを口にくわえたままアプリゲームをしながらフラフラとタイヤ止めのブロックに腰かける。その横に並んでちょこんとしゃがみ込むと、チラリとこちらを見た後に腕に下げていたビニール袋から残りの半分のパピコを取り出して、スッと差し出してきた。
「いらないの」
「……………くれるの?!」
「早く食べないと溶けるよ」
「ありがとう〜!!」
まさかの出来事に嬉しくなって受け取ったパピコを写真に撮る。その写真意味ある?と不思議そうな顔で問いかけられるけど、初めて孤爪くんに貰ったものだよ!記念だよ!全部写真で残しておかなきゃ。
フタをとって口にくわえると、同じようにパピコをくわえている孤爪くんと目が合う。おそろい!と素早くカメラアプリを起動して自撮り。ついにツーショをゲット。即ホーム画面に設定した。孤爪くんは写真があまり好きじゃないのか嫌そうな顔をしているけれど、しっかり写ってくれるあたりやっぱり優しい。
「おーおーナチュラルにいちゃついてるんじゃないよ」
「黒尾先輩、羨ましいんですか?」
「何だとコラ、ボクはモテモテなので全然羨ましくありません〜間に合ってます〜。つかお前らコンビニ前にいると治安が悪くて怖ぇーな」
「それさっき夜久パイも言ってた」
アイスを食べ終えてゴミを捨てると、全員揃ってるし行くかと声がしてまたみんなで揃って歩き出す。孤爪くんの横に並んで歩く帰り道に頬の緩みが止まらない。ヘラヘラとした顔をしている自覚はあるけど、それを孤爪くんに「変な顔」と指摘されてしまったので両頬を押さえて慌てて修正した。
後ろではギャーギャーとなおピ達とリエーフくんが騒ぐ声がして、それに笑う黒尾先輩とか呆れた声を出す夜久パイ達がいる。後ろをチラリと振り返って、バレー部のみんなもよく私らなんかのグループに偏見を持たずにこんなに馴染んでくれてるよなぁと感慨深くなっていると、危ないと髪の毛を引っ張られた。
「痛い!」
「変なとこ向いてるからでしょ」
「もっと優しく言ってくれてもいいのに!」
「例えば?」
「えっ…………て、手を繋いで引っ張ってくれるとか?」
「却下」
両手をポケットにいれてスタスタと速度を上げて歩いて行ってしまうので「待って嘘ごめん」と追いかければ、振り返った孤爪くんはハァと面倒臭そうな顔をしながら小声で呟いた。
「みんなの前でとか、無理」
………それって人がいなければいいってこと?そういうこと?と目をパチパチとさせていると、「また変な顔してる」と呆れた様子で前を向かれてしまった。
「〜〜っ孤爪くん、好き!!」
「うっわ、なに、ちょっと、離れて!」
ガッと孤爪くんに飛びついて無理やり腕を組むと、物凄く嫌そうな顔をしながら反対側の腕でぐいぐいと体を押される。絶対離れてやるものかとそのまましがみつけば「いい加減にして!」とさらに力を込められる。
「やだー!!」
「ほんとに、そういうとこ、嫌い…!」
「えっ、き、嫌い!?私はこんなに好きなのに!孤爪くんは遊びで私と付き合ってるんだ!」
「そんなわけないじゃん…!いいから離れて…!」
「じゃあ好きって言って!!」
グッと黙る孤爪くんにわくわくとした目線を投げかけるも一向に言ってくれる素振りはない。段々と自分が言ったことに恥ずかしくなってきて、さすがに自分でも耐えきれなくなってしまったので「ごめん面倒くさいノリした」とそっと片腕を離す。
もう片方の手も離してさらに距離を取ろうとすると急に曲がってきたトラックが姿を表した。驚くと同時に物凄い力で引き寄せられて、何がなんだかわからずにされるがままに身を任せた。
「っ危ない!馬鹿!」
「…………」
「なに…?」
「………孤爪くん、やっぱ超〜かっこいいね!」
はぁ?今そんなこと言ってる場合?最悪の場合轢かれてたんだけど。と早口でキレる孤爪くんに構わず抱きつくと、離れてって言ってんじゃんと両手で肩をグイグイと押されてしまう。
「まさかギャルに振り回される研磨が見れるなんて考えても見なかったな」
「今日のストーリーネタももらったよ〜!」
「うちらもいるんで二人の世界入り込むのやめてくださーい」
みんなに冷やかしの声をかけられると、それまでの3倍くらいの力でガッと体を引き剥がされてしまう。笑う夜久パイたちの声を聞きながらツンとそっぽを向いた孤爪くんは私を置いてスタスタと行ってしまった。
「なんやかんや上手くいってそうで安心だよ」
「黒尾先輩…………先輩も早く彼女出来るといいですね」
「うるせー、館ちゃんは先輩に対しての礼儀をもっと学びなさい。あと俺はモテモテなので間に合ってるから別にいいんだって言ってんでしょーが」
信号待ちで止まっていた孤爪くんに追いつくと、チラッと一瞬こちらを確認してすぐに前を向いてしまう。信号が変わって動き出した集団に続いてゆっくりと歩き出すと、半歩前を歩く孤爪くんの綺麗な髪の毛がふわふわと揺れるのが目に入った。
「孤爪くん」
「なに」
「まだ好きって言ってもらってないよ」
「…………もう終わった話じゃん」
「えー」
「みんなの前では言わないって」
「二人の時になら言ってくれるの?」
「……………館さんといるとホントに調子狂う」
前髪をガシガシとかきながら上唇を突き出して不機嫌そうな表情をする。なんだかこの顔を私はよく向けられているなぁと思う。けれど基本無表情な彼が私といる時は表情が豊かになるって前に黒尾先輩たちがコソッと教えてくれたから、どんな顔をしていたって嬉しくなっちゃうんだよ。
「孤爪くん、大好き」
「…………」
「孤爪くんは?」
「……さっきから言ってるじゃん、また今度ね」
もうとっくに日の暮れたこの時間じゃ夕日のせいだなんて言い訳は効かない。孤爪くんのほんのりオレンジ色に染まった頬を見ながら大きく笑って、半歩あった距離を縮めて隣に立った。
孤爪くん、これからもずっと大好き!
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