不安も沢山!なんてったって高校生

何だよ厚木、また振られたのか?なんて、私が落ち込んでる姿を見たみんながすれ違いざまに話しかけてくる。うるさい!振られて落ち込んでんじゃないし!いや確かに振られてるけど!それに関してはいつだって落ち込んでますけど!でも今日は、そうじゃないんだって!

ここ最近も勉強を頑張ってたはずだったのになかなか成績が伸びないのが今回の悩みだ。どうだ、白鳥沢の生徒っぽい悩みだろう。

学校の成績は申し分ないけど、模試の結果が思うようにうまくいかない。まだ夏の始めだとは言ってももう夏だ。決戦の時が刻一刻と近づいていることに変わりはない。

もうすぐ来る夏休み。きっと始まってしまえばあっという間だ。高校生活の最後の夏休みも出来るだけ満喫したい。でも勉強も、今よりもっともっと本腰を入れなきゃならない。やりたいこと、やらなきゃならないことはどちらも山のようにある。

バレー部はインターハイまでも控えているのだ。牛島くんは、きっと私よりもうんと忙しい毎日を過ごすんだろう。

夏休みが終わったらすぐに秋が来る。そうしたらもういよいよ受験が目の前だ。そう思うと、少しだけ今の状況は堪えるものがある。もっと明るい夏にしたいのに、外の暑苦しいまでの快晴とは裏腹に私の心は雲に覆われていた。


「あ、詩織ちゃん。今日はなんだか元気ない?」

「……わかる?」

「今のはわざとらしく元気ないように振る舞ったっしょ」

「バレたか」


通りかかった天童に顔を覗きこまれ、視線をそちらに向けた。心配してるんだかしてないんだかわからない彼は、私の様子を伺いながらも突き放すように声をかける。


「若利くんならアッチ」

「……うーん、今はいいかな」

「マジでへこんでる感じ?」

「へこんではないと思うんだけど、考え事というかなんというか」


言葉を詰まらせる私にハテナマークを頭上に浮かべた天童。しかし、すぐに私の手元のものに気が付いたのか「それこの前の模試のやつ?」と指をさして聞いてくる。


「そー。天童は受けた?」

「受けてない」


天童は申し訳ないけれど勉強を特別しているようには今のところ思えない。決して頭が悪いとかじゃなくて。わかりやすく受験モードになるようなタイプではなさそうだけど、それでも勉強に励んでいるといったイメージがあまり浮かんでこないのだ。


「天童はどこ行くの?やっぱバレーで推薦もらう感じ?」

「俺はバレーは高校までって決めてるから違うヨ」

「マジか」


意外だ。なんか勝手にバレー部はみんなバレー方面で進学するものと当たり前のように思い込んでた。全員が全員そんなことあるわけないか。今まで打ち込んできたスポーツでも高校卒業を機に辞めてしまうなんて、別に珍しいことでもない。少しもったいないなとは思うけど。

牛島くんはどうなんだろう。牛島くんはバレーをやめることはないだろうから、強豪の有名大学とかに通うのだろうか。きっと引く手数多だろうな。彼の実力を考えれば宮城にとどまらずそれこそ全国から声がかかると思う。牛島くんはどこを選んで、どういう道に進んでいくのだろうか。


「私は絶対第一志望に受かりたいんだ」

「ドコなの志望校」

「……ここ」

「おおー、俺でもわかる」

「うん。知名度も含めて選んだ」

「そこ通ってたらモテそーみたいな?」

「モテるとかじゃないけど、大学名を言ったらほとんどの人があーあそこかーってなるくらいには有名なところが良い」

「はっきりしてんね」

「華々しいキャンパスライフを手に入れたいの!それだってある意味ちゃんとした夢で立派な志望動機でしょ!」

「確かにそうかもー。知らんけど」


自分から聞いてきたくせに興味を失ったのか雑な返答をする天童。みんな最近私に対しての扱いがいささかぞんざい過ぎはしないだろうか。

部活へと向かう天童を見送って、もう一度模試の結果に視線を落とした。悪くはない。悪くはないけど、前回とさほど変わらない点数を見るとやはりため息が出る。判定も、この時期にこれなら良くないわけではないけど決して良いとも言えなくて、もやもやとした塊がなかなか消化しきらない。


「なんだよ厚木、また振られたのか?」


突然こうやって声をかけられることにも、慣れたくはないけどもう慣れてきてしまった。すぐに思考回路を切り替えて飛んできた声の方に顔を向ける。


「違うって!!どいつもこいつも本当にそれしか言わないな!!」

「そりゃ毎日毎日あんだけやってれば仕方ないだろ。あ、でも振られることにももう慣れてきたとか?」

「慣れませんけど!?」


こうして声をかけられることには慣れてしまったかもしれないけど、断られることに慣れるも何もない!

ごめんそんなに怒んなってと両手を上げて、頑張れよーと一言残して元クラスメイトの男子は帰っていった。

それには返事をせず、私も教室への道を急いだ。ほんとに何だかみんな私に大して最近少しひどいと思う。でも特に悪意は誰からも感じられないから、もしかしたら私がただ考えすぎて引っかかってしまっているだけなのかも。

今の状況みたいな誰も関係のない個人的な成績とかの胸の引っ掛かりを、無意識に他人に対してぶつけているだけだったら、それはとても良くないことだ。もっと余裕を持たなきゃ。まだ時間はあるし、絶望するような結果では決してないのだ。何事も粘り強さと根性が大事じゃないか。

そんなことを考えながらパチっと気合いを入れるように一度頬を両手で叩いて、左手に握った模試の結果のプリントをクシャッと軽い皺がつくくらいに握りしめた。



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