ガンガンいこうぜ!自己紹介
「牛島くん、はじめまして……じゃないけど、心新たにということではじめまして。厚木詩織です」
「ああ。知っている」
「突っ走りがちなのは私の悪い所だけど、真っ直ぐ相手に向き合えるところは私の長所だと思います」
「そうか」
「えっと……好きな物、というか人?は、牛島若利くんです」
「知っている」
昼休み、食堂へと向かう牛島くんを慌てて追いかけ無理やり目の前の席に座った。放課後の部活は邪魔できないし、その後彼は真っ直ぐに寮に戻る。そんな牛島くんと二人きりになれるのはこの昼休みしかない。それでもあと少しで天童たちが来てしまうんだろう。しかし私の事情を何も知らないであろうクラスメイトたちに囲まれているよりは、天童達に囲まれていた方が幾分かやりやすい。
昨日彼らに言われた通り、とりあえず挫けずガンガン行こう!ということで、まずは私のことを牛島くんに知ってもらわなくちゃならないと改めて自己紹介をしていた。
「なにコレ面接?」
「今時お見合いでもこんな事しねぇだろ」
私たちの様子を伺うようにやってきたバレー部たちが面白いものを見るような視線を送ってくる。気にしないようにしたまま、私は目の前でもぐもぐと変わらない表情で日替わり定食を食べ続ける牛島くんに構わず話しかけた。
「牛島くんのバレーがすごく好きで!もう本当に!かっこいいし!」
「ありがとう」
「てか牛島くん自体がもうかっこよすぎるっていうか……好きです!!」
「知っている。先程も聞いた」
「付き合ってください!!」
「すまないが、それはできない」
私たちの会話に俯いて笑いを堪えるバレー部の面々。天童だけがお腹を抱えながら「漫才?」なんて言って笑っている。こっちは真剣にお話ししてるんだからもう少し静かに見守っていてほしい。あと会話を盛り上げるために出来れば入ってきてほしい。
結局その日は私のことを話したまま終わってしまった。明日の昼休みもこうして少しでも話ができればいいな。
―――――――――――――――
教科書を忘れた。こう見えても私も立派な白鳥沢の生徒で、しかも今年は受験生だ。教科書も辞書も毎日しっかり持ち帰っている。昨日課題をやったままノートだけ入れて教科書は置いて来ちゃったのかな。とりあえず昼休みの終わりに誰かに借りに行こう。そう思っていたのが一時間と少し前。
そして今私は牛島くんの教科書を手に授業を受けている。
無駄な折り目もなく、汚れもない教科書。男子の教科書ってもうちょっと雑に扱われた形跡があると思っていたけど、とんだ偏見だった。私のものよりもきっと状態がいい。そんな教科書を恐る恐る捲る。
いつものように牛島くんのところに乗り込んでいた昼休み。ポロっと「次の授業の教科書ないんだよね」と手っ取り早くその場にいた誰かに借りようと試みた。
「誰か持ってたら貸してください」
「持ってねぇな」
「俺もない」
「俺も」
「俺も」
「嘘じゃん絶対今日授業あるクラスあるはずでしょ!?いじめ!?」
「俺は持っているぞ」
「……ッ牛島くん!!」
こんな感じで、その場みんなが持ってないと、たぶん、いや絶対嘘なんだけど、言ってくれたおかげで持っているのが牛島くんしかいなかった、ということになり借りれる流れとなったわけだ。この時だけはバレー部に本気の本気で感謝した。
教室まで一緒に戻って、待っていろだなんて言われて廊下で待つ。すぐに出てきた牛島くんが手にしていたこの日本史の教科書は、もはやスーパーアイテムのようにも思えて眩しかった。
落書きとかしたら気づいてくれるかな。でも怒ってもう貸してくれなくなっちゃったら困るな。悶々としながら過ごした一時間は、全く集中ができていないようでいて、いつもの三倍は頭に入ったと思う。
恐るべし牛島若利。もしかして受験に必要なものは学校の授業でも塾でもなく、牛島くんの存在なんじゃないだろうか。
「牛島くん!ありがとう。助かりました!」
「良かった」
「また借りたくてわざと教科書忘れて来ちゃうかも!」
「それは良くないな」
「そんなことはしないけどさ、でもまたもし忘れちゃったら貸してね。もちろん牛島くんが忘れた時は私が貸すから!」
「わかった。もしもの場合はそうさせてもらう」
「……っ好きです!」
「知っている」
いつも通り頷いて流した牛島くんは、そのまま教室の中へと戻っていった。私も自分の教室へと戻る。昼休み以外でも牛島くんと話せたパワーで、眠い午後の授業も乗り越えられる気がした。
―――――――――――――――
牛島くんの良いところは、相手の話をしっかりと目を見ながら聞くところだ。
「そんなに見つめられるとドキドキします」
「すまない」
「あっでもそらさないでいてくれるほうが嬉しいかも!」
「わかった」
今日もやってると懲りずに茶化しに来る天童たちは、「懲りないのは詩織ちゃんでしょ」と言いながらその場へと座った。
牛島くんは優しい。優しいから、私がどれだけ話しかけてもちゃんと答えてくれる。
「ウザかったらウザイってちゃんと言っていいんだぞ若利。厚木はそんくらいじゃへこたれねーから大丈夫だ」
「へこたれますけど!?」
私の強気な姿勢を肯定してくれるのは嬉しいけど、流石にウザイなんて言われてしまったらへこむからね!?
瀬見をキッと睨みつけると、コエーなんて笑いながら今日の日替わり定食に手をつけ始める。今日の献立凄い美味しそう!私もそれにすれば良かった。
バレー部が来ると途端に牛島くんと話せる回数が少なくなる。最初は私にほんの少しくらいは気を遣ってくれていたけど、ここまで来たらもうみんなも慣れてしまったらしく、私がいてもいなくても変わる事はない。今も隣に座った山形くん達と話をしている牛島くんは、向かいにいる私のことなどもう忘れてしまったようだった。
「詩織ちゃん眉間にシワ寄ってる」
「いけない、可愛い顔が台無し!」
「そうかもしれないけど自分で言うなよ」
ガンガン行こうぜを意識し始めて数週間。なかなか道のりは険しい。
「ああ。知っている」
「突っ走りがちなのは私の悪い所だけど、真っ直ぐ相手に向き合えるところは私の長所だと思います」
「そうか」
「えっと……好きな物、というか人?は、牛島若利くんです」
「知っている」
昼休み、食堂へと向かう牛島くんを慌てて追いかけ無理やり目の前の席に座った。放課後の部活は邪魔できないし、その後彼は真っ直ぐに寮に戻る。そんな牛島くんと二人きりになれるのはこの昼休みしかない。それでもあと少しで天童たちが来てしまうんだろう。しかし私の事情を何も知らないであろうクラスメイトたちに囲まれているよりは、天童達に囲まれていた方が幾分かやりやすい。
昨日彼らに言われた通り、とりあえず挫けずガンガン行こう!ということで、まずは私のことを牛島くんに知ってもらわなくちゃならないと改めて自己紹介をしていた。
「なにコレ面接?」
「今時お見合いでもこんな事しねぇだろ」
私たちの様子を伺うようにやってきたバレー部たちが面白いものを見るような視線を送ってくる。気にしないようにしたまま、私は目の前でもぐもぐと変わらない表情で日替わり定食を食べ続ける牛島くんに構わず話しかけた。
「牛島くんのバレーがすごく好きで!もう本当に!かっこいいし!」
「ありがとう」
「てか牛島くん自体がもうかっこよすぎるっていうか……好きです!!」
「知っている。先程も聞いた」
「付き合ってください!!」
「すまないが、それはできない」
私たちの会話に俯いて笑いを堪えるバレー部の面々。天童だけがお腹を抱えながら「漫才?」なんて言って笑っている。こっちは真剣にお話ししてるんだからもう少し静かに見守っていてほしい。あと会話を盛り上げるために出来れば入ってきてほしい。
結局その日は私のことを話したまま終わってしまった。明日の昼休みもこうして少しでも話ができればいいな。
―――――――――――――――
教科書を忘れた。こう見えても私も立派な白鳥沢の生徒で、しかも今年は受験生だ。教科書も辞書も毎日しっかり持ち帰っている。昨日課題をやったままノートだけ入れて教科書は置いて来ちゃったのかな。とりあえず昼休みの終わりに誰かに借りに行こう。そう思っていたのが一時間と少し前。
そして今私は牛島くんの教科書を手に授業を受けている。
無駄な折り目もなく、汚れもない教科書。男子の教科書ってもうちょっと雑に扱われた形跡があると思っていたけど、とんだ偏見だった。私のものよりもきっと状態がいい。そんな教科書を恐る恐る捲る。
いつものように牛島くんのところに乗り込んでいた昼休み。ポロっと「次の授業の教科書ないんだよね」と手っ取り早くその場にいた誰かに借りようと試みた。
「誰か持ってたら貸してください」
「持ってねぇな」
「俺もない」
「俺も」
「俺も」
「嘘じゃん絶対今日授業あるクラスあるはずでしょ!?いじめ!?」
「俺は持っているぞ」
「……ッ牛島くん!!」
こんな感じで、その場みんなが持ってないと、たぶん、いや絶対嘘なんだけど、言ってくれたおかげで持っているのが牛島くんしかいなかった、ということになり借りれる流れとなったわけだ。この時だけはバレー部に本気の本気で感謝した。
教室まで一緒に戻って、待っていろだなんて言われて廊下で待つ。すぐに出てきた牛島くんが手にしていたこの日本史の教科書は、もはやスーパーアイテムのようにも思えて眩しかった。
落書きとかしたら気づいてくれるかな。でも怒ってもう貸してくれなくなっちゃったら困るな。悶々としながら過ごした一時間は、全く集中ができていないようでいて、いつもの三倍は頭に入ったと思う。
恐るべし牛島若利。もしかして受験に必要なものは学校の授業でも塾でもなく、牛島くんの存在なんじゃないだろうか。
「牛島くん!ありがとう。助かりました!」
「良かった」
「また借りたくてわざと教科書忘れて来ちゃうかも!」
「それは良くないな」
「そんなことはしないけどさ、でもまたもし忘れちゃったら貸してね。もちろん牛島くんが忘れた時は私が貸すから!」
「わかった。もしもの場合はそうさせてもらう」
「……っ好きです!」
「知っている」
いつも通り頷いて流した牛島くんは、そのまま教室の中へと戻っていった。私も自分の教室へと戻る。昼休み以外でも牛島くんと話せたパワーで、眠い午後の授業も乗り越えられる気がした。
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牛島くんの良いところは、相手の話をしっかりと目を見ながら聞くところだ。
「そんなに見つめられるとドキドキします」
「すまない」
「あっでもそらさないでいてくれるほうが嬉しいかも!」
「わかった」
今日もやってると懲りずに茶化しに来る天童たちは、「懲りないのは詩織ちゃんでしょ」と言いながらその場へと座った。
牛島くんは優しい。優しいから、私がどれだけ話しかけてもちゃんと答えてくれる。
「ウザかったらウザイってちゃんと言っていいんだぞ若利。厚木はそんくらいじゃへこたれねーから大丈夫だ」
「へこたれますけど!?」
私の強気な姿勢を肯定してくれるのは嬉しいけど、流石にウザイなんて言われてしまったらへこむからね!?
瀬見をキッと睨みつけると、コエーなんて笑いながら今日の日替わり定食に手をつけ始める。今日の献立凄い美味しそう!私もそれにすれば良かった。
バレー部が来ると途端に牛島くんと話せる回数が少なくなる。最初は私にほんの少しくらいは気を遣ってくれていたけど、ここまで来たらもうみんなも慣れてしまったらしく、私がいてもいなくても変わる事はない。今も隣に座った山形くん達と話をしている牛島くんは、向かいにいる私のことなどもう忘れてしまったようだった。
「詩織ちゃん眉間にシワ寄ってる」
「いけない、可愛い顔が台無し!」
「そうかもしれないけど自分で言うなよ」
ガンガン行こうぜを意識し始めて数週間。なかなか道のりは険しい。