大学生!東京に来ても変わらず大好き

都心部ではないにしろ、そこそこ大きなこの駅の周りには仙台駅の何倍もの人がいる。せかせかと帰宅を急ぐ人の中、頭一つ大きな彼はこの人混みの中に立っていてもすぐにわかった。


「ごめんお待たせ!!」

「俺も今着いたところだ」


待ち合わせ時間の十分前にしっかりとそこに居てくれた牛島くんは、慣れたように人を避けて歩き出した。私ははまだまだ慣れきれない東京の街。それもここは彼の家の最寄り駅である。


「大学は順調か」

「うん、毎日楽しいよー。なんて言ってるのかわからないくらい早口すぎる講義だけはちょっと困ってるけど」

「そうか」

「そっちは?バレー楽しい?」

「楽しいな」

「そっかぁ。早く試合見たいなー!」


選手の個人タオルとかあるのかな。ユニフォームとか着ていきたい。瀬見と天童に自撮りして送りつけようかな。冗談っぽくそれを彼に言ってみたら、「俺にも送ってもらえると嬉しい」なんて言われてしまって不意に照れた。

他愛もない話をしながら辿り着いた彼の部屋に、足を踏み入れるのはまだ三回目だ。彼らしく無駄なものが置かれることはなく、シンプルに整頓されている。

ベッドに背中を預けるようにしてフローリングに座った私に、「硬いからこっちに座った方がいい」と言って、彼が腕を引きベッドに腰掛けさせる。そのまま彼の肩に頭を乗せて、できるだけくっついてみた。

高い位置にある彼の顔を見上げたらしっかりと視線があった。そのまま数秒。何も言わずに黙って自然で訴えてみる。いつも通り表情を変えない彼が、少し体を傾けて触れるだけのキスをくれた。


「……よくわかったね?」

「俺がしたいと思ったからした」

「わかってはなかったか」


でもいいや。同じことを思ったのだから。噛み合わないようでちゃんと噛み合う。同じようで全然違う私たちは、こうして東京に出て二ヶ月が経過した今もうまくやっている。


「詩織もそう思ってくれていたのなら嬉しい」

「…………私もしたいと思ってたよ」

「そうか」

「うん……ねぇ、もう一回言って?」

「……?そう思ってくれていたのなら嬉しい」

「違う違う!!その前!!」

「詩織……?」

「それ!!それそれ!!」


この間思い切って名前で呼んでほしいとお願いしてみたのだ。厚木じゃなく、詩織って呼んで欲しい。そう言ったら彼は悩むことも恥ずかしがることも一切せずに「わかった」と言って、私の名前を躊躇なく口にしてみせた。そして私は思わず倒れかけた。彼の声で紡がれる自分の名前、最高。

ちなみに私が名前を呼んでも、彼は倒れそうになってはくれなかった。


「若利くん、大好きー」


ぎゅーっと力一杯抱きついてみるけど、彼はびくとも動かない。どれだけ名前を呼んでも倒れないし、私が何をしようと動揺を見せない。今のところは、私の力ではどんなに頑張っても彼には敵わないらしい。


「俺もだ、詩織」


名前を呼ばれるたびにどうしてもにやけてしまう。そんな私を見て若利くんも優しく息を吐いた。



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