光陰矢の如し!後悔なく駆け抜けろ
気を抜けない空気が漂っている。月曜日の教室はいつも通りなようでいて全然違った。昨日一昨日で実施されたセンター試験には、この教室の多くの生徒が受けにいっている。私のように受けない選択をした子もいるけど、学年全体で見てもかなりの少数派だろう。
結果が良かった子もいれば、きっと悪かった子もいる。それぞれにさまざまな思いを抱えながらいつも通り振る舞っている。この空間にいるだけで少し息が苦しい。
「思った以上にヤバかった」
「ヤバかったとは」
「周り気にしたら負けだ。とりあえず厚木は会場の他の奴らとは目合わせんなよ」
山形くんが怖いことを言い出した。もしかしたら思うようにいかなかったのだろうか。ドキドキしながら顔を見ると、こんなことを言いながらも出来は良かったらしい。とりあえず一安心だ。
この空間は今日も至っていつも通りの空気が流れ続けている。教室内の張り詰めた空気から解放されたおかげか一気に食欲が湧いてきた。日替わり定食の唐揚げを一つ大平くんにあげてご飯を駆け込む。みんなの話を聞いていたら私もまたやる気が出てきた。
「厚木も受けてみれば良かったのに」
「全国的な自分のレベル知りたいとかなかったの?」
あげた唐揚げを一口で飲み込んだ大平くんが首を傾げる。
「下手に受けて手応えなかったらかなり落ち込んで確実にモチベーション下がる」
「でも厚木ならセンター利用でもそこそこ良い併願抑えられんじゃねーの?ワンチャン国立も行けるかもだし」
「それは考えたんだけどねー……でも私の志望校全部私立だし、一般に賭けることにした」
「もはや潔い」
センターを受けてみて良い結果だったら国立への挑戦をするとか、その結果を利用して併願を抑えるとか二年の時点では考えたりもしてたけど、第一志望校をしっかりと定めてからはその線は消した。ここもここもと欲張るような定め方は、目標がブレるとこんがらがる私にはあまり向いていないやり方だ。目標だけを見て、そこに一番シンプルな方法で立ち向かう。
センターが終わったからといって受験は終わりじゃない。私と同じくここからみんなも二月に向けて更なる追い込みが始まっていく。
試験日まであと十五日。私ももうクヨクヨしている時間や他の何かを考えている暇もない。不安や心配をしている暇がったら問題を解いて、試験のことだけを考える。
―――――――――――――――
一月の後半から自由登校になる。今日が通常登校の最終日だ。何日間か登校日は定められているけど、卒業前までもうこうして全員が揃って登校することはないんだろう。
「寂しい!!」
「厚木は二月の試験が終わるまではもう来ないの?」
「うん。塾詰め込んでるし、登校時間とか準備時間もったいないから家で自習する」
このメンバーに紛れている私は異質なはずなのに、もう誰にも不思議がられることは無くなった。春から今までこうして一緒に過ごしてきた休み時間。これももう無くなってしまうのだ。
「寂しいー!!」
「感情の起伏がでかいな相変わらず」
「山形くんは寂しくないの!?」
「そりゃ寂しいけど」
「遅かれ早かれみんなバラバラになるんだし、わかってたことじゃん」
「天童はすぐそういうこと言う〜!!」
案外どこが志望校だとか、この先どうするといった話をみんなはしない。もしかしたらバレー部内ではしてるかもしれないけど。私だって仲の良い親友の志望校とかは知っているけど、でも本当に仲の良い子たちのだけで、あとの人の事はよく知らない。クラスの中でも知っている子はほんの僅かだ。
みんなも話の内容的にこういう進路を考えているんだろうって予想しているくらいだし、私の志望校も見当はついているかもしれないけど、はっきりと詳しく知っているのはこの中じゃ天童くらいなんじゃないだろうか。
それでも一つだけわかるのは、本当にみんなバラバラになってしまうということだ。
寂しい寂しいと言いながら体を左右に揺らしていたら、隣にいる牛島くんにぶつかってしまった。そこまで強い力ではないけど、それでもびくともしない牛島くんに感心する。ごめんと謝ると大丈夫だと返してくれた。こういう些細なやり取りを、私たちはあと何回できるんだろう。
「牛島くん、牛島くん」
周りの人たちに聞かれないよう、口に手をあて牛島くんの耳元で小さく名前を呼んだ。
「今日も好きです」
こそこそと、もはや学年中の人が私の気持ちを知っているから内緒でもなんでもないけど、声を顰めて伝えてみた。牛島くんは私の方に視線を下ろして、少し遅れて「知っている」と言った。小さな声で伝えた私に合わせずいつも通りの声量で。そのせいで周りのみんなには、またやってらというような呆れた視線を向けられてしまっている。
明日からまたしばらく会えない。もうここでこうして牛島くんに会える回数も多くはない。この短くて限られた時間の中で、私は何をすれば後悔せずにこの場所から卒業できるんだろう。
結果が良かった子もいれば、きっと悪かった子もいる。それぞれにさまざまな思いを抱えながらいつも通り振る舞っている。この空間にいるだけで少し息が苦しい。
「思った以上にヤバかった」
「ヤバかったとは」
「周り気にしたら負けだ。とりあえず厚木は会場の他の奴らとは目合わせんなよ」
山形くんが怖いことを言い出した。もしかしたら思うようにいかなかったのだろうか。ドキドキしながら顔を見ると、こんなことを言いながらも出来は良かったらしい。とりあえず一安心だ。
この空間は今日も至っていつも通りの空気が流れ続けている。教室内の張り詰めた空気から解放されたおかげか一気に食欲が湧いてきた。日替わり定食の唐揚げを一つ大平くんにあげてご飯を駆け込む。みんなの話を聞いていたら私もまたやる気が出てきた。
「厚木も受けてみれば良かったのに」
「全国的な自分のレベル知りたいとかなかったの?」
あげた唐揚げを一口で飲み込んだ大平くんが首を傾げる。
「下手に受けて手応えなかったらかなり落ち込んで確実にモチベーション下がる」
「でも厚木ならセンター利用でもそこそこ良い併願抑えられんじゃねーの?ワンチャン国立も行けるかもだし」
「それは考えたんだけどねー……でも私の志望校全部私立だし、一般に賭けることにした」
「もはや潔い」
センターを受けてみて良い結果だったら国立への挑戦をするとか、その結果を利用して併願を抑えるとか二年の時点では考えたりもしてたけど、第一志望校をしっかりと定めてからはその線は消した。ここもここもと欲張るような定め方は、目標がブレるとこんがらがる私にはあまり向いていないやり方だ。目標だけを見て、そこに一番シンプルな方法で立ち向かう。
センターが終わったからといって受験は終わりじゃない。私と同じくここからみんなも二月に向けて更なる追い込みが始まっていく。
試験日まであと十五日。私ももうクヨクヨしている時間や他の何かを考えている暇もない。不安や心配をしている暇がったら問題を解いて、試験のことだけを考える。
―――――――――――――――
一月の後半から自由登校になる。今日が通常登校の最終日だ。何日間か登校日は定められているけど、卒業前までもうこうして全員が揃って登校することはないんだろう。
「寂しい!!」
「厚木は二月の試験が終わるまではもう来ないの?」
「うん。塾詰め込んでるし、登校時間とか準備時間もったいないから家で自習する」
このメンバーに紛れている私は異質なはずなのに、もう誰にも不思議がられることは無くなった。春から今までこうして一緒に過ごしてきた休み時間。これももう無くなってしまうのだ。
「寂しいー!!」
「感情の起伏がでかいな相変わらず」
「山形くんは寂しくないの!?」
「そりゃ寂しいけど」
「遅かれ早かれみんなバラバラになるんだし、わかってたことじゃん」
「天童はすぐそういうこと言う〜!!」
案外どこが志望校だとか、この先どうするといった話をみんなはしない。もしかしたらバレー部内ではしてるかもしれないけど。私だって仲の良い親友の志望校とかは知っているけど、でも本当に仲の良い子たちのだけで、あとの人の事はよく知らない。クラスの中でも知っている子はほんの僅かだ。
みんなも話の内容的にこういう進路を考えているんだろうって予想しているくらいだし、私の志望校も見当はついているかもしれないけど、はっきりと詳しく知っているのはこの中じゃ天童くらいなんじゃないだろうか。
それでも一つだけわかるのは、本当にみんなバラバラになってしまうということだ。
寂しい寂しいと言いながら体を左右に揺らしていたら、隣にいる牛島くんにぶつかってしまった。そこまで強い力ではないけど、それでもびくともしない牛島くんに感心する。ごめんと謝ると大丈夫だと返してくれた。こういう些細なやり取りを、私たちはあと何回できるんだろう。
「牛島くん、牛島くん」
周りの人たちに聞かれないよう、口に手をあて牛島くんの耳元で小さく名前を呼んだ。
「今日も好きです」
こそこそと、もはや学年中の人が私の気持ちを知っているから内緒でもなんでもないけど、声を顰めて伝えてみた。牛島くんは私の方に視線を下ろして、少し遅れて「知っている」と言った。小さな声で伝えた私に合わせずいつも通りの声量で。そのせいで周りのみんなには、またやってらというような呆れた視線を向けられてしまっている。
明日からまたしばらく会えない。もうここでこうして牛島くんに会える回数も多くはない。この短くて限られた時間の中で、私は何をすれば後悔せずにこの場所から卒業できるんだろう。