進め!ゴールはまだまだ先にある
この前受けた模試の結果がなかなかに良かった。夏の毎日の勉強の成果と、苦手を克服するための対策が少しずつ成果を出してきているのが目に見えて思わず口角が上がる。
「なんかやけに機嫌いーね」
「わかるぅ〜?」
「…………」
「ねぇ、なんで続き聞いてくれないの。普通そこは何があったのって聞くところじゃん」
「ソレ待ちってわかったからめんどくさくなった」
天童はこの食堂で地味な人気を誇るうどんを啜りながらそう言った。いいもん、そんな対応されても今の私は流してあげるもん。
「最近ずっとそれ見てんね」
「うん。なんかとりあえずでも見てる方が落ち着くようになってきた。」
「英単語帳見て落ち着くってヤバくなってんじゃない」
「ちょっとくらいヤバくなんなきゃ受験生なんてやってられないって」
流石にこういう時は眺めてるだけで特に覚えられるとかはないけど、それでもなんか、昨日までに覚えたり作ったりした例文を眺めて目に入れるだけでもプラスになるんじゃないかとか思ったり。もはや悪あがきにも似てるけど、意味ないかもしれないけど、それでもマイナスになるってことはないと思うからやれることはやっておくのだ。
「かなり英語に力入れてるよね」
「うん」
「外国語話せるとかっこいー的な?」
「なんでわかったの?」
「わかりやすいでしょ詩織ちゃんは」
何ヵ国語も喋れるってかっこいいじゃん。そう言うと、なら手っ取り早く海外とか行っちゃえばいいのにーとあくび混じりに言われた。たしかに無理やりにでも話さないと生活できない環境に身を置くのが結局は一番だとは思うけど、そんな簡単にはいかないというもの。
「ヨーロッパとかでスタイリッシュに生活するのもかっこいいしね。憧れるよね」
「ヨーロッパほとんど英語圏じゃないけどネ」
「出勤しがてらコーヒーとかテイクアウトして、ヒールカツカツ鳴らして車の多い大通りを歩くの。うるさい上司の細かい指示にイラッとしたりしながら」
「ウケる、映画見過ぎ」
「いつか行きたいな海外。旅行でもいいけど仕事とかでもさ」
「詩織ちゃんのメンタリティならいきなり海外でもやっていけそうだけど」
「国内の外資とかでメキメキ力つけてから満を持して海外に飛ぶ方がなんかストーリーとしてかっこよくない?」
「そー?遠回りじゃん」
「えー」
天童は、めんどくさいめんどくさいって私を雑に扱いながらも、結構こういうくだらない話を聞いてくれる。共感してくれるかは別だけど。
「詩織ちゃんは理由がちょーアバウトなくせにブレないからすごいよね」
日常会話の一部として理想を語るのは結構気分もやる気も上がる。でもこういう話は人も選ぶから、完全に否定も馬鹿にもしないけど自分の意見ははっきり言ってきて、適度に流してくれる天童とかに話すくらいがちょうどいい。
―――――――――――――――
牛島くんが一番かっこよかった。誰がなんと言ったって、結果がどうであったって、私の中ではずっとずっと、牛島くんが一番強くてキラキラしててかっこよかった。
「あ、牛島くん」
「厚木か」
意外にもこうして校内でばったり出くわすことってなかったな。ゆっくり帰り支度をして少し遅れて教室を出たら、昇降口に牛島くんがいた。今日の昼休みは職員室にわからない問題の質問に行っていて食堂では食べなかったから、今日はこれが初めて彼と顔を合わせる瞬間だ。
「春高予選、お疲れ様。見に行ったよ」
「ありがとう」
牛島くんはいつも真っ直ぐ体育館へ向かう。多分今日も。でも、いつもより少しゆっくり。
宮城県代表として全国大会出場常連の男子バレー部は、決勝戦で惜しくも敗退した。誰もがあのバレー部がここで負けてしまうだなんて思ってなくて、驚きというよりも信じられない気持ちだった。
まだまだ続いていくと思っていた日常が、突然終わりを告げてガラガラと崩れ落ちていくような、そんな感覚がした。試合を応援していただけの私がこう思うんだから、実際の選手たちは私なんかじゃ計り知れないくらいの気持ちを抱いているんだろう。
「……牛島くん、好きです」
「負けたのにか」
「負けたのにだよ」
牛島くんが体ごとこっちを見る。私もしっかりと顔を上げた。
「また試合見に行かせてね」
「しかし、あれが最後の試合だった」
「高校ではでしょ?」
わかりにくいけど、ほんの少しだけ牛島くんが動きを止めた気がした。普段からよく見ているから気がつける程度に僅かに目を見開いて頷く。ニッといつも通り笑ってみたら、牛島くんも一瞬だけ表情を緩めてくれたような気がした。
きちんとやる。一生懸命、手を抜かずに。誰よりも点をとって、観客でさえも恐れてしまうほどの力がある。期待も信頼も、プレッシャーも全部飲み込んで自分の存在を叩きつける。その場を圧倒する強さが、かっこよくないわけがない。
結果を見ればチームとしては負けてしまったけど、それでも牛島くんが負けていたとは私には思えない。バレーボールについて詳しくはないから、他の人がどう思っているかはわからないけど、私の中で一番強くてかっこよくて憧れるのは、やっぱりどう考えても牛島くんだってあの試合を見て改めて思った。
「牛島くんはどこの大学行くの?」
「大学ではなく、チームに入る予定だ」
思ってもなかった返答に思わずポカンと口を開ける。大学スッ飛ばしてチーム入りなんてそうそう出来る事じゃないのにすごすぎる。牛島くんくらい実力があれば可能かもしれないけど、それでもやはり驚きはある。
「じゃあ次に私が見る牛島くんの試合はプロでの試合になるってこと……」
「そうなるな」
あっけらかんと言い放った牛島くんは、これからを見据えて、もう気持ちを前に動かしているように思えた。
「楽しみにしてる!頑張って!」
「ああ。厚木もがんばれ」
立ち止まらずにどんどん進んでいく牛島くんに離されないように、私ももっと早く走らなくちゃ!!
「なんかやけに機嫌いーね」
「わかるぅ〜?」
「…………」
「ねぇ、なんで続き聞いてくれないの。普通そこは何があったのって聞くところじゃん」
「ソレ待ちってわかったからめんどくさくなった」
天童はこの食堂で地味な人気を誇るうどんを啜りながらそう言った。いいもん、そんな対応されても今の私は流してあげるもん。
「最近ずっとそれ見てんね」
「うん。なんかとりあえずでも見てる方が落ち着くようになってきた。」
「英単語帳見て落ち着くってヤバくなってんじゃない」
「ちょっとくらいヤバくなんなきゃ受験生なんてやってられないって」
流石にこういう時は眺めてるだけで特に覚えられるとかはないけど、それでもなんか、昨日までに覚えたり作ったりした例文を眺めて目に入れるだけでもプラスになるんじゃないかとか思ったり。もはや悪あがきにも似てるけど、意味ないかもしれないけど、それでもマイナスになるってことはないと思うからやれることはやっておくのだ。
「かなり英語に力入れてるよね」
「うん」
「外国語話せるとかっこいー的な?」
「なんでわかったの?」
「わかりやすいでしょ詩織ちゃんは」
何ヵ国語も喋れるってかっこいいじゃん。そう言うと、なら手っ取り早く海外とか行っちゃえばいいのにーとあくび混じりに言われた。たしかに無理やりにでも話さないと生活できない環境に身を置くのが結局は一番だとは思うけど、そんな簡単にはいかないというもの。
「ヨーロッパとかでスタイリッシュに生活するのもかっこいいしね。憧れるよね」
「ヨーロッパほとんど英語圏じゃないけどネ」
「出勤しがてらコーヒーとかテイクアウトして、ヒールカツカツ鳴らして車の多い大通りを歩くの。うるさい上司の細かい指示にイラッとしたりしながら」
「ウケる、映画見過ぎ」
「いつか行きたいな海外。旅行でもいいけど仕事とかでもさ」
「詩織ちゃんのメンタリティならいきなり海外でもやっていけそうだけど」
「国内の外資とかでメキメキ力つけてから満を持して海外に飛ぶ方がなんかストーリーとしてかっこよくない?」
「そー?遠回りじゃん」
「えー」
天童は、めんどくさいめんどくさいって私を雑に扱いながらも、結構こういうくだらない話を聞いてくれる。共感してくれるかは別だけど。
「詩織ちゃんは理由がちょーアバウトなくせにブレないからすごいよね」
日常会話の一部として理想を語るのは結構気分もやる気も上がる。でもこういう話は人も選ぶから、完全に否定も馬鹿にもしないけど自分の意見ははっきり言ってきて、適度に流してくれる天童とかに話すくらいがちょうどいい。
―――――――――――――――
牛島くんが一番かっこよかった。誰がなんと言ったって、結果がどうであったって、私の中ではずっとずっと、牛島くんが一番強くてキラキラしててかっこよかった。
「あ、牛島くん」
「厚木か」
意外にもこうして校内でばったり出くわすことってなかったな。ゆっくり帰り支度をして少し遅れて教室を出たら、昇降口に牛島くんがいた。今日の昼休みは職員室にわからない問題の質問に行っていて食堂では食べなかったから、今日はこれが初めて彼と顔を合わせる瞬間だ。
「春高予選、お疲れ様。見に行ったよ」
「ありがとう」
牛島くんはいつも真っ直ぐ体育館へ向かう。多分今日も。でも、いつもより少しゆっくり。
宮城県代表として全国大会出場常連の男子バレー部は、決勝戦で惜しくも敗退した。誰もがあのバレー部がここで負けてしまうだなんて思ってなくて、驚きというよりも信じられない気持ちだった。
まだまだ続いていくと思っていた日常が、突然終わりを告げてガラガラと崩れ落ちていくような、そんな感覚がした。試合を応援していただけの私がこう思うんだから、実際の選手たちは私なんかじゃ計り知れないくらいの気持ちを抱いているんだろう。
「……牛島くん、好きです」
「負けたのにか」
「負けたのにだよ」
牛島くんが体ごとこっちを見る。私もしっかりと顔を上げた。
「また試合見に行かせてね」
「しかし、あれが最後の試合だった」
「高校ではでしょ?」
わかりにくいけど、ほんの少しだけ牛島くんが動きを止めた気がした。普段からよく見ているから気がつける程度に僅かに目を見開いて頷く。ニッといつも通り笑ってみたら、牛島くんも一瞬だけ表情を緩めてくれたような気がした。
きちんとやる。一生懸命、手を抜かずに。誰よりも点をとって、観客でさえも恐れてしまうほどの力がある。期待も信頼も、プレッシャーも全部飲み込んで自分の存在を叩きつける。その場を圧倒する強さが、かっこよくないわけがない。
結果を見ればチームとしては負けてしまったけど、それでも牛島くんが負けていたとは私には思えない。バレーボールについて詳しくはないから、他の人がどう思っているかはわからないけど、私の中で一番強くてかっこよくて憧れるのは、やっぱりどう考えても牛島くんだってあの試合を見て改めて思った。
「牛島くんはどこの大学行くの?」
「大学ではなく、チームに入る予定だ」
思ってもなかった返答に思わずポカンと口を開ける。大学スッ飛ばしてチーム入りなんてそうそう出来る事じゃないのにすごすぎる。牛島くんくらい実力があれば可能かもしれないけど、それでもやはり驚きはある。
「じゃあ次に私が見る牛島くんの試合はプロでの試合になるってこと……」
「そうなるな」
あっけらかんと言い放った牛島くんは、これからを見据えて、もう気持ちを前に動かしているように思えた。
「楽しみにしてる!頑張って!」
「ああ。厚木もがんばれ」
立ち止まらずにどんどん進んでいく牛島くんに離されないように、私ももっと早く走らなくちゃ!!