2014年8月24日

東京と比べれば僅かに過ごしやすいとは思うものの、この時期はたいして差を感じられない暑さ。人混みといえども都会と比較すれば随分と通行人の数は少ない宮城に帰ってきた。

あまり想像がつかない質素な和室。久しぶりに訪れた徹の部屋は、少しだけ荷物が減ってさらにシンプルになっていたけれど特別何も変わってはいなかった。ご両親も相変わらず明るく良い人達で、徹とお母さんのコント染みた掛け合いも健在だ。


「畳久しぶりだー」

「あっちには流石にそれはないもんね」

「うん、畳の上でゴロゴロ、幸せ」


っと温泉に浸かった時のような力の抜けきった声を出しながら、彼は大きく伸びをした。「心も一緒にゴロゴロしよ」という徹の誘いに、「私は布団の上でゴロゴロするから」と用意してくれていた布団を二組敷いていけば、「えっ、一組で良くない!?」と飛び起きた徹がびっくりしたようにこちらへとやってきた。


「徹のその体格で一組で寝れるわけないでしょ」

「でも心の部屋ではシングルベッドで寝たじゃんか!」

「それは仕方なくだって。そんなの続けてたら体バキバキになるよ」

「それはそうだけど……じゃあ二組繋げて真ん中で寝よ」

「それ意味ある?」


いそいそと布団をくっつけ始めた徹は、そのままゴロンと寝転がって私の腕を引っ張った。後ろからぎゅっと抱え込まれて首の後ろにキスを落とされる。表面に触れるだけのそれはとてもくすぐったくて、思わず身を捩った。

ゆっくりと振り返って向かい合う。眉を下げて優しく微笑むその表情は、見たことがあるようで見たことはなかった。近くで並ぶとさらにわかりやすくなる体格差。十代を終え二十代へと突入した彼は、高校生の時よりも明らかに成長していた。そんな彼に少しの寂しさを感じるのは、その過程を隣で見続けることができなかったからだろうか。でもそれはきっとお互いに言えることで、彼も同じことを私に対して思っていることだろう。


「心はいつの間にそんな顔するようになったの」

「……どんな?」

「それ言わせる?」


ふはっと軽く息を吐くように笑って、子供が遊ぶようにキスをした。お互いに少し演技がかったような仕草をして。まるで映画のワンシーンのように。

ありきたりな脚本に書かれているようなその流れは少しの羞恥心を煽る。しかしそれがまた私たちの気分を昂めていった。離れることなく何度も繰り返されるそれに、行き場を失った声がたまに溢れ出す以外は、布と布が擦れる音のみしかしなかった。

こんなにも役者は熱を入れているのに、物の少ないシンプルな和室に敷布団を二組くっつけただけの安いセット。用意された台本は無く、全てがわざとらしいアドリブで進んでいく。出演者は二人しかいない。ただの一般人の私と、この日本じゃ名の知られていない彼だけじゃ誰も見ようとはしないだろう。随分とチープなB級映画だ。


「ここでこうしてるとなんか懐かしくならない?」

「まだ一年半しか経ってないのに、あの時はすごく若かったなぁとか思う」

「お互い制服だったしなー」

「もう徹のその体格じゃ制服は着れなさそうだね」

「流石にキツいだろうね。心はまだまだ全然いけるよ。着てみる?」

「着ないよ。もうコスプレじゃん」

「えー残念」


楽しそうに微笑んだその顔は、制服を纏っていた頃の彼よりもやっぱりかなり大人びていて、なんだか知らない人のような感じすらする。ここに来てまた緊張感が襲いかかってきて、ドキドキと胸が高鳴った。高校生の時、何も知らなかった私が初めて徹に触れようとした時のあの日の感覚にとても似ていた。彼の胸元を掴む。少しだけ震えたその手のひらを、彼が優しく上から包み込んだ。


「ははっ、何でそんなに固まってるのさ」


吹き出すように大きく笑った徹の表情がクシャッと柔かくなった。あどけなさを残すその笑顔は間違いなく私の知っている彼のものだ。ほっと安心したように息を吐く。不思議そうな視線を寄越した徹に「なんでもないよ」と一言言って、太い首元に腕を回した。


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