2013年7月5日
東の空には夏の大三角形が輝いている。宮城にいた頃はもう少し他の星座も見えていたはずだけど、この場所では弱い光では残念ながら認知してもらえない。緩い風に吹かれながら、静かにゆっくりと目を閉じた。
一年前のこの時期に私は彼に告白をして、そして関係が始まったのだ。SNSを開けば一年の記念日を祝うカップルたちの投稿が数多く見られる。私たちには私たちの事情があるし、他の人たちと比べることなんてしないけれど、いいなぁと思う気持ちが全くないかと言われるとそれはそれで嘘になる。だからと言ってこの状況が嫌なのかと言われると、それも絶対に違うのだけど。
課題に追われつつ試験も乗越え、ヘトヘトになった体を柵に預けて、震えたスマホを確認した。
「おはよう徹」
『おはよ、そっちは夜の八時?』
「うん。今日は練習何時からなの?」
『十時。だから一時間くらいは話せると思う』
日本とアルゼンチンの時差はピッタリ半日の十二時間。こっちが朝ならあっちは夜で、こっちが夜ならあっちは朝だ。どちらかが一日の用事を終えようやく時間が空いたと思ったら、どちらかは新たな一日が忙しく始まってしまう。
真逆の生活リズムじゃこうして電話をするのも一苦労。事前にスケジュールを確認しないと声を聞くことさえも難しかった。
『そっちはどう?なんか最近忙しそうだよね』
「今日試験が終わったから、課題は沢山あるけど少しは楽になるかな」
『それは良かった。試験お疲れ様』
口に出せば出すほどに気持ちが強くなってしまうから、寂しいと素直に打ち明けられない。早く会いたいとも言い出せない。徹の負担にはなりたくないし、自分からこっちに残ると決めたのに、簡単にそんなことを伝えてしまうのはなんだか悪い気がして。
声が聞けるだけで嬉しいけど、出来ることなら直接聴きたい。今きっとこういう顔をしているんだろうという想像ではなくこの目で見たい。日に日に強まっていくその気持ちを、頑張って押し込めて無理やり蓋をする。
「そういえばこの前久しぶりに松川くんに会ったよ」
『なんでまっつん!?二人で!?』
「花巻くんに会いにこっち来ててさ、せっかくだからってご飯呼んでくれたの」
『びっくりしたじゃんか!焦らせないでよ』
「何でそんなに焦ってるの」
『いくら俺でもまっつんに本気出されたら勝てる自信ないもん』
「なにそれ」
『まっつんは要注意なの。にしてもその二人ほんと仲良いね』
「あはは、ほんとにね」
まだ離れてから数ヶ月しか経ってない。なのにもうこんなにも彼が恋しい。徹にも早く会いたいな。最後までその本心を口に出すかどうか迷ったけど、流石に向こうに行ったばかりで今年は帰って来れないだろうなと言っていた徹の余計な重りにはなりたくなかった。
言葉を音にしないようにとグッと飲み込む。見上げた空に瞬く星は、静かに私を見下ろしていた。