あるひのひるさがり



「オマエ……また人の部屋勝手に入ってんのかよ」


襖を開いて部屋へと一歩踏み込むと、いつもいるはずの野良がいねぇ。まぁそういう事もあるよなともう一歩進むと「あ、圭介おかえり〜」と気の抜けた声が飛んでくる。よく見ればベッドの上で猫を抱えながらゴロゴロしている女が一人。そいつは所謂幼馴染ってやつで、勝手に入んなと何回言っても全く聞く耳を持たない困ったやつだ。


「こんな時間に帰ってくるの珍しーね」

「今日は何も予定なかったからな」

「そうだ、もうキャットフード無くなりそーだから明日買ってきて良い?」

「勝手にしろ」


わかった、と言いながら手元の猫をぎゅっと抱きしめると、ころんと丸まりながら目を閉じる。おいおいそのまま寝んじゃねーぞ、と思いながら名前を呼ぶと、随分緩い声で「んー?」という腑抜けた返事が返ってきた。


「眠いからお昼寝しよ」

「帰れ、オレの部屋ですんな」

「やだ、ここが一番落ち着く」

「……ならオレの場所くらい空けとけ」


もぞもぞと壁際に移動したなまえはそのまま本当に寝息を立て始めた。マジかよ。毎度のことだが危機感なさすぎだろ。ハァと溜息をつきながらテキトーにTシャツに着替えて、一人でさえ狭ぇのにさらにスペースの無いベッドに滑り込んだ。抱えられていた猫が起き上がって反対側へと移動してオレの腰辺りに丸まる。それを左手で撫でながら目を閉じた。


そっと擦り寄ってきたコイツが「私にも」と掠れた声で言いながらしがみついてきて、勘弁しろなんて思いながら空いた右腕でそいつの頭を撫でてやる。にゃあと猫が一鳴きして、反対側でふふっとなまえが笑った。


「起きたらすぐ帰れよ」

「うん、優しいバジ、好き」


なんだよそれ、答えになってねーだろ。そう思いながら、「オレも」とただ一言素直にそう返せばいいのに、「おう」、だなんて歯切れの悪い言葉を紡ぐしかないヘタレた自分に少しだけ嫌悪した、ある日の昼下がり。



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