ばれんたいんじゃないけど
「なんだこれ」
「バジの眼鏡。に似てるチョコ」
大きな眼鏡型のチョコが売っていた。多分もうすぐバレンタインの時期だから。当日まで黙って隠しておくことができなくて、早く渡したくなっちゃったからバレンタインまではまだまだあるけどもう渡しに行った。
ガサガサと箱からそれを取り出して「よく出来てんなー」とその完成度に感激するバジをワクワクとした表情で見つめる。「なんだよ」と眉を顰めそんな私を不思議そうに見てくるバジに、少しムッとしながら「早くかけてみてよ」と言って、すでに彼が付けていたいつものあのダサい眼鏡を腕を伸ばして無理矢理外した。
「オレがかけるとなると少し小さすぎねぇ?」
「大丈夫いけるいける」
「無茶言うな……お、普通にいけたワ」
「凄い!やばい、写真写真!こっち向いて!」
「チョコくせー」
「似合ってるよ!」
「千冬にも見せにいこうぜ」
私の腕を引いて家を飛び出したバジの後に続いて二人して階段を駆け降りる。風に乗ってほんのりとチョコレートの匂いがした。
「千冬ゥ!見ろこれ!」
「え、場地さんのその眼鏡……チョコっスか!?」
どうだ!と誇らしげなバジの後ろから顔を出して、私があげたの!と主張する。「あ、なまえさんもいたんすね」と私の存在には気がついてなかった様子の千冬くんに「もう」と声をかけようとしたところで、バジが慌てた様子で「ヤベェ」と声を上げた。
「溶けてきた」
「外しましょ早く!」
「わ、バジ体温高いもんね。大変だー頑張れー」
「なまえさん暢気に動画撮ってないで協力してださい」
「うっわベトベトなったわ。甘ぇー」
ギャーギャーと騒ぎながらチョコを外す。鼻の頭から耳にかけてチョコまみれになったバジを見て三人でお腹を抱えて笑った。
「どうすんだよこの溶けかけのチョコ」
「バジにあげたやつだからしっかり食べてね」
「責任持ってオマエも食え」
「バジの体温で溶けたチョコを!?」
「嫌がんな。かけさせたのテメーだろーが」
「どっちが食べるかは後にしてとりあえず中入ってチョコ置いた方がよくないスか?手の上でも溶け続けますよ」
「マジじゃん」
「千冬くんも入れて三人で食べよ」
「オレ左目食う」
「じゃあオレ右目で」
チョコが溶けただけでこんなにも楽しくなれる。バレンタイン当日は、もう少しだけマシなものがあげられたらいいな。